「聴こえるか?杉本さん。珍しい音だぞ。犬よりも太くて長く続く遠吠え。狼のものだ。」
「大きな白い狼がアシㇼパさんを守るのを二度見た。どういう関係なんだ?」
「そうか‥やはりあの遠吠えはレタラだったか。あの狼は、アシㇼパと父親が山へ狩りに行った時、ヒグマに襲われているのを見つけて拾ってきた。小さい雪だるまのようだったから白いという意味で、レタラと名付けた。」
「いつも一緒だった。父親が殺されたあとも、アシㇼパはレタラと、ふたりきりで山へ行った。だが、ふたりは生きる世界が違ったのだ。その日も今夜のような遠吠えが風に乗って、アシㇼパたちに届いた。」
「遠吠えだ‥」
「…レタラ‥これはおまえの‥ダメだ。聴いちゃダメッ。」
「クーン」
「ダメだ。待て。止まれ。小屋に戻れ。レタラ。」
…あいつは、飼い犬になれなかった。誇り高き、ホロケウカムイだから…
「レタラ。行くな。戻って来い。レタラ。おまえも私を、ひとりにするのか。わあああああああ。行かないでレタラ…アチャ(お父さん)。」
『ゴールデンカムイ』アシリパとレタラの物語です。
かつて日本には、ニホンオオカミとエゾオオカミの2種類のオオカミがいました。
しかし、人間の影響により、120年前に絶滅してしまいました。
二ホンオオカミは、西郷隆盛同様、写真が残されておらず、その姿は、日本動物史最大の謎とされてきました。
日本に3体だけあるニホンオオカミの剥製が、上野の国立科学博物館にあります。
しかし、DNAを調べると、このニホンオオカミは、二ホンオオカミとイヌのハイブリットである事がわかりました。
つまり、現在日本にあるニホンオオカミの剥製は、ニホンオオカミの真の姿ではないという事です。
ニホンオオカミの特徴は、①耳が小さい②足が短い③瞳の色が茶若しくは黒であるという事です。
①耳が小さいは、野山の茂みの中を機敏に動く為に、進化してきたと考えられます。
②足が短いは、起伏が多い日本の野山を駆けまわる為に、進化してきたと考えられます。
③瞳の色が茶若しくは黒は、日光の照射率が高い日本の気候に合わせる為に、進化してきたと考えられます。
ニホンオオカミの骨格は、国立科学博物館にあります。
そして、毛皮は秩父の神社に保存されていました。
秩父地方では、大口の真神としてオオカミを神として祀る歴史が、現在も紡がれています。
『日本書紀』において、ヤマトタケルが、奥多摩の山にさしかかった時、山鬼が大きな白鹿の姿となって現れ、深い妖霧を放ち一行を惑わすという話が出てきます。
その時に、ヤマトタケルら一行を助けたのが、白いオオカミであったと伝えられています。
その後、オオカミは、ヤマトタケルから「大口真神としてこの地にとどまり、災いを防ぎこの地を守護しなさい。」と告げられ、人々に深く信仰されるようになったと伝えられています。
3つの特徴と骨格、毛皮を合わせ、最新の技術で描いたニホンオオカミは、剥製のものよりも、美しい姿となっています。
かつて、日本の野山には、誇り高いホロケウカムイの遠吠えが聞こえていました。
私は猫派ですが、どこかオオカミにだけは畏怖の念を感じてしまいます。