あのさ、チームの為の役割って理由で、自分の事納得させなくていいよ。わかる?別に1番(エースナンバー)付ける事だけが野球じゃないと思う。ないと思うけど、巴に1番が欲しいって気持ちがあるなら、ずっと自分が1番付けたいって、1番譲りたくないって、思っていいと思う

 

 「綾瀬川が、どんなにええピッチャーでも、あいつ一人やったら勝ち上がれへんて、わかってます。せやし、自分が離脱したらアカンて、わかってます。こんチームの一員として、ピッチャーとして‥ちゃんと自覚‥持ちます。」

 「‥いや、違うな。」

 

 「あのさ、チームの役割って理由で、自分の事、納得させなくていいよ。わかる?別に1番(エースナンバー)付ける事だけが、野球じゃないと思う。ないと思うけど、巴に1番が欲しいって気持ちがあるなら、ずっと自分が1番つけたいって、1番譲りたくないって、思っていいと思う。」

 「今の巴のチームの為なら、背番号なんて関係ないって‥2番手なりの役割みたいなのって、野球選手として理想的な姿勢だと思うし、こっとしてはそういう選手が、チームの雰囲気を作ってくれるのは、すごい助かるんだよね。」

 

 「さっき巴が言った通り、綾瀬川がどんなにすごいピッチャーでも、投球制限がある以上、チームとしては綾瀬川一人じゃ勝ち上がっていけないし、チームの為なら背番号なんて関係ないって、それも真理だと思う。でも、それと同じくらい、巴は1番にこだわっていいよ。納得出来ないままで良いって言うか‥。」

 『ダイアモンドの功罪』巴と関根トレーナーの会話です。

 

 

 私は、チェルシー時代のマタが大好きでした。

 10番を背負った小さなスペイン人は、瞬く間にチャンピオンズリーグ優勝の偉業を成し遂げました。

 しかし、そこからブルーズは苦境の時代を迎えます。

 チームが下位に低迷する中、10番だけが1人気をはき、何とかチームを取り持っていました。その左足から、ブルーズが救われた場面を私は何度も目撃しています。

 チームの循環の低迷期に突入し、監督が次々を交代する中、現れたのがジョゼ・モウリーニョでした。

 

 ジョゼは、自身のフィジカルと気合いで守備をし、最少人数で最短でゴールを目指すフットボールを体現する為、10番をスタメンから外します。

 怪我人が出た事で、出場した試合、10番の左足から点が入った直後、10番は交代を命じられました。

 10番は、ベンチに戻ると、不満を表しにします。

 その後も、10番がチームの中心に戻る事はなく、そのシーズンの冬、10番はユナイテッドに移籍しました。

 

 

 ユナイテッドに移籍した直後のニューカッスルとの試合、マタと香川のコンビネーションにより、ニューカッスルを圧倒した試合は現在でも記憶に残っています。

 しかし、偶然か必然か、今度はジョゼがユナイテッドの監督として、再びマタの前に現れます。

 大人になったマタは、守備にも貢献するようになり、文句1つ言わずベンチにいる時にも、プライベートにおいてもチームにポジティブなメッセージを発信し続け、いつの間にか模範生のような存在になっていきました。

 

 「He is professional.」

 チャンピオンズ、ユーべ戦をマタのFKで勝利した後、モウリーニョがマタを評した言葉です。

 彼のプロフェッショナルな姿勢の影響か、マタはユナイテッドのユニホームを着て、スタンフォードブリッジに戻った時にも、コーナーキックを蹴る時にもブルーズのファンからは拍手をされていました。同じ移籍をしたマティッチは、ボールを持つ度にブーイングをされていました‥。

 

 

 「チームメイトとヴィッセル神戸に属する全ての人々に感謝したいです。一緒に過ごしたこの数カ月は、自分にとって、とても特別なものでした。最後に、クラブにとって初めてのリーグ優勝で締めくくることができたのが何よりも、嬉しかったです。ファミリーの一員として、歴史に刻まれる重要な瞬間に参加できて本当に幸せです。そして、これからも皆さんに最高の幸運をお祈りしています。」

 ヴィッセル神戸退団が決定した、マタのメッセージです。

 

 マタは、ヴィッセル神戸に加入したものの、試合出場は途中出場の1試合だけでした。

 リーガやプレミアで実績のある元スペイン代表が、日本のJリーグで1試合の出場に留まったのであれば、普通は文句の1つも言いたくなります。

 しかし、マタは、文句1つ言わず、チームの為の言動を貫きます。

 チームからすると、そのような選手がいる事は、非常に大きな力となります。

 また、そのような態度を取る人を、日本人は大好きです。

 

 

 ただ、私はマタには、文句を言ってほしかったです。

 私自身が、指導者とぶつかってきたフットボール人生であった影響か、私は選手には常に1番を目指して貰いたいという思いがあります。

 レベルを上げていけば、自分より優れた選手に必ず出逢いますが、そこで2番手に重んじるのではなく、1番を目指す事を貫いてほしいです。

 

 自分のフットボール人生を考えた場合、多くの場合、2番手に重んじる方が、試合に出場出来ますし、安泰かもしれません。

 そして、2番手のプレイに徹する事は、比較的誰にでも出来ます。

 仕事であれば、それも立派だと思いますが、私はフットボールにおいては、1番を目指す男達を観ていたいです。

 その夢が、フットボールが、世界で最も人気のあるスポーツである理由であると思います。

 

 

 

 2009年5月マンチェスター・ダービーで交代を命じられた7番は、脱いだユニホームを、当時ットボール界で最も威厳のあった監督に投げつけました。

 2021年8月ユベントスで絶対的な存在でなくなった事を告げられた7番は、迷う事なくチームを後にしました。

 2023年11月ユナイテッドでスタメンで出場する事がなくなった7番は、その不満を隠す事なく、世界に発信しました。

 

 7番は、決められた助走から、ゴール裏にいる数万人の観客を睨み殺すかのような覇気とともに、フリーキックを蹴ります。

 どこにいても、誰が相手でも、1番を貫く男。

 そんな男の誕生を、心待ちにしています。