おちこんだりもしたけれど、私は元気です2

 

 「ルフィは、海賊王になる男だ。」

 『ONEPIECE』ゾロ、サンジのルフィに対する脅迫(しんらい)です。

 

 「聞けよ、牛島。俺は、自分の選択が間違いだと思った事は一度も無いし、俺のバレーは何ひとつ終わっていない。取るに足らないこのプライド、絶対に覚えておけよ。」

 『ハイキュー』及川徹の若利君に対する脅迫(しんらい)です。

 

 「私達は、最強なんだ。理子ちゃんが、どんな選択をしようと、君の未来は私達が保証する。」

 『呪術廻戦』夏油傑の五条悟に対する脅迫(しんらい)です。

 

 

 宮崎駿の物語は、高畑勲への片思いの物語です。

 

 「時間がない。」「タバコ吸いたい。」「しめた。」

 いずれも、宮崎がよく使う言葉ですが「時間がない。」は『ハウルの動く城』カルシファーの言葉であり「タバコ吸いたい。」は『風立ちぬ』二郎の言葉であり「しめた。」は『崖の上のポニョ』宗助の言葉です。

 宮崎にとっては、映画が現実で、現実は虚構なのかもしれません。

 

 規制ばかりで、窮屈になったと感じる一面のある日本において、何度も引退撤回をし、創作の最中「めんどくせー」を連発し、怒り出すへそ曲がりな男は、日本にとって貴重な存在です。

 

 『となりのトトロ』には、お母さんが、殆ど出てきません。

 お母さんは、不治の病にかかっているのです。

 お母さんやメイ・お父さんの前では、元気な姿をしているサツキが、1人になると、泣くシーンがあります。

 これは、宮崎の子ども時代そのものを描いたものです。

 

 青年期となり、うつ症状が継続した宮崎の人生を変えたのが、高畑との出逢いでした。

 高畑と出逢った宮崎は、高畑に惚れこみ、高畑の期待に応えようと、アニメーターとして『アルプスの少女ハイジ』の作画に没頭します。

 その宮崎の努力が実り、同作品は平均視聴率20%を超える大成功をもたらしました。

 

 しかし、宮崎の行き過ぎた片思いは、実りません。

 『母を訪ねて三千里』において、宮崎が、いくら提案をしようと、高畑は宮崎の提案を一向に作品に取り入れませんでした。

 ここで、宮崎は高畑の下を離れ、自らの手で『未来少年コナン』の制作に取り掛かります。

 

 監督だけではなく、作画も全て自分で行っていた宮崎ですが、8話で作画を描く事が出来なくなりました。

 ここで、手を差し伸べてくれたのが、高畑でした。

 高畑の助力もあり『未来少年コナン』は、現在でも最高傑作と言われるような作品となりました。

 

 

 片思いが紆余曲折の果てに、結ばれたと思った宮崎は、再び高畑の下に戻ります。

 しかし、高畑は、宮崎ではなく、後に『耳をすませば』の監督になる近藤に愛情を注いでいました。

 再び、高畑の下を離れた宮崎が出逢ったのが鈴木敏夫でした。

 

 宮崎は、鈴木に「俺は15年青春を捧げてきたのに、何も返して貰っていない。」と怒り、泣きます。

 ここから、私達が知る宮崎と鈴木のスタジオ・ジブリの物語が、スタートするのです。

 

 

 「気がついたら、海面すれすれを、俺だけ1人飛んでいた。」

 「神様が、まだ来るなと言ったのね。」

 「俺には、お前はずっと1人で、そうして飛んでろと言われた気がした。」

 『紅の豚』ポルコとフィオの会話です。

 

 1998年近藤が亡くなり、2018年高畑も亡くなりました。

 「パクさん(高畑)に、褒めて貰いたくて、描き続けている。」

 宮崎の片思いは、結局実りませんでした。

 それでも、宮崎・高畑ともに、脅迫(しんらい)の下に、互いに作品を作り続けるという壮大な恋物語を、日本中の人を巻き込んで、魅せてくれました。

 

 「今夜に決めたわ。出発よ。」

 『魔女の宅急便』に代表されるように、ジブリ作品は、旅立ちからスタートします。

 年の瀬となった今日、あなたは、どんな旅立ちをしますか?