…変化とは、状況に応じて容(すがた)を変える事だ。状況を素早く理解し、飲み込む事だ。時に理解し難い状況もあるが…
…すぐに飲み込む。それが兄さんの強さだ。父の仕えた藩主が改易となった時も、貧乏暮らしで母が病死した時も、父が主君の仇討ちに参加し処刑された時も、野党に襲われた時も、すぐに状況を飲み込み、最終的にはその場を支配するに至る…
…この世の理は、弱肉強食ではない。適者生存。適応する者こそ、強いのだ…
…飲み込めぬなら、すぐさま逃げるも、また適応。兄さんは、変化の天才だ。ただ一つ変わらないのは…
…強さとは、変化する事。ずっと変わらない関係など不要だ。だからこそ、兄さんは強いんだ…
…兄さんの強さは、変化だ。そして、変わるからこそ浮彫りになる、絶対に折れない自我だ…
『地獄楽』亜左桐馬の脳内言葉です。
サピエンス(ヒト)が初めてオーストラリアに辿り着いた時、オーストラリアには現在の生態系には存在しない大きな動物が複数生息していました。
しかし、サピエンスがオーストラリアに上陸して、しばらく経つと、その大きな動物達は絶滅してしまいました。
熊のような見た目のディプロドンは3トン近くあり、大きさは自動車と同じ位ありました。
他にも、身長2m体重200㎏もあったジャイアントカンガルーが、ヒョウのような見た目のフクロライオン、木の上にはジャイアントコアラが住んでいました。
当時のサピエンスは、3つの大きな強みを持っていました。
①協力:力を合わせて狩りが出来る
②意外性:見た目が危険な生物に見えない
③火の力:火を自在に操る事が出来る
巨大なディプロドンは、1頭のフクロオオカミからは身を護る事が出来ても、器用な20人のサピエンスのグループ相手では、身を護る事が出来ませんでした。
さらに、サピエンスは、最も効果的な狩りの方法を、他のグループに伝える事が出来ました。
これは、ライオンには出来ません。
サピエンスは、アフリカやアジアで暮らしていた時から、すでにグループで狩りをする方法と、情報を共有する方法を身につけていました。
そして、サピエンスは、初めてオーストラリアに辿り着いた時に、②意外性という強みも手にしました。
人類は、200万年もの間、アフリカやアジアで暮らしてきました。
その間に、少しずつ狩りの方法や情報共有の方法を身につけていきました。
人類が少しずつ狩りの技術を上げていく中で、他の動物達も人類を少しずつ怖がる事を覚えていきました。
その為、アフリカとアジアの動物達は、人類に近づかない事を学び、生き延びる事が出来ました。
現在も、アフリカとアジアに大型の動物が生存しているのは、人類が怖い存在であるという事を学ぶ時間があった為です。
しかし、オーストラリアの動物達には、人類が怖いものであるという事を学ぶ時間がありませんでした。
一見すると危険ではないその動物(人類)は、すでに地球上で最も怖い動物だったのです。
人類が怖いものであるという事を学ぶ時間が出来なかったオーストラリアの大型動物達は、瞬く間に人類により滅ぼされてしまいました。
この出来事は、北アメリカでも南アメリカでも続きます。
私達は、クモを見ると、誰に教わったわけでもないのに、怖がります。
ところが、自動車を見ても、誰も怖がりません。
これは、おかしなことです。
何故なら、現代においてクモはほとんど人を殺す事はなく、翻って自動車は毎年100万人以上のヒトの命を奪っているからです。
これは、クモは私達の祖先がアフリカに誕生した時から存在していた事に対し、自動車が世界中に発展したのが最近100年間程だからです。
その為、ヒトはクモを怖がる事を学ぶ時間はあっても、自動車を怖がる事を学ぶ時間がありませんでした。
本能が怖がるようになるには、何世代にも渡る遺伝子による働きが必要なのです。
サピエンスは、オーストラリアの大型動物達を、皆殺しにしてしまいました。
サピエンスは、オーストラリアの徹底的に変えてしまいました。
そんな事をしたのは、人類が初めてでした。
人類は初めて、世界の一部を、自らの手ですっかり変えてしまったのです。
人類は、人類がオーストラリアを始めとする世界中に拡散したこの出来事をグレートジャーニーと呼びます。
確かに、人類の視点からみたら、そうかもしれません。
また、当時の人類は、知らない土地で必死に生きようとしただけなのかもしれません。
しかし、滅ぼされた動物や環境を大きく変えられた自然においては、異なる見方が出来ると思います。
「父さん、母さん、屋敷に帰りたいよ…侍の子がいつの間にか盗賊になって、もう僕には何が正しいのかわからない。」
「泣くな桐馬。弱みを見せりゃ、死ぬぞ。何が正しいかわからねぇなら、オレだけを信じろ。オレは、兄貴だ。兄は弟の道標だ。俺は、いつでも正しい。」
『地獄楽』幼き亜左桐馬と亜左弔兵衛の会話です。