「非術師は嫌いかい?夏油君。」
「分からないんです。呪術は、非術師を守るためにあると考えていました。でも最近、私の中で非術師の‥価値のようなものが揺らいでいます。弱者故の尊さ。弱者故の醜さ。その分別と受容ができなくなってしまっている。非術師を見下す自分、それを否定する自分。術師というマラソンゲーム。その果ての映像(ビジョン)があまりに曖昧で、何が本音か分からない。」
「どちらも、本音じゃないよ。まだ、その段階じゃない。非術師を見下す君。それを否定する君。これらはただの思考された可能性だ。どちらを本音にするのかは、君がこれから選択するんだよ。」
『呪術廻戦』九十九と夏油の会話です。
「この人は何も出来ない。早くヘルパーを入れるなりしてください。」
先日、生活保護を受けている私がケアマネジャー(ケアマネ)として担当している高齢者(利用者)の家に突然入室して来て、私と面識のない初対面の70代位の女性が、私に言った言葉です。
ケアマネをしていると、上記のような家族でもないにも関わらず、突然現れる第三者という人に遭遇する事があります。
そして、このような人は、大抵の場合、上記の様に挨拶もせず、これまでの経緯等を聞く事もなく、自分の言いたい事を感情的に大声で伝えてきます。
皆さんは、初対面の人に、感情的に大声でいきなり上記のような言葉を投げつけられたら、どのような気持ちになるでしょうか?
恐怖・不安・怒り等、感じる気持ちはそれぞれかもしれませんが、いずれもネガティブな気持ちを抱くのではないでしょうか。
上記の例は1例であり、このような事が毎日のように生じ、ケアマネの心は疲弊し、鬱病を発症し、仕事を辞めていくという「負の連鎖」が止まりません。
2018年に厚労省が実施した調査によると、過去1年間において「利用者・家族からハラスメントを受けた事があるか?」という質問に対し、60%のケアマネが「ある。」と答えました。
また、2019年労災請求数の1位の業界は、社会福祉・介護事業でした。
労災とは、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度の事です。
社会福祉・介護事業が労災を請求する要因は、鬱病等の精神疾患です。
この原因には、利用者・家族等からのハラスメントも含まれています。
10年前の2009年と比較すると、社会福祉・介護業界の労災請求数は、4倍にもなっています。
ちなみに、労災請求数の2位は医療業界であり、鬱病で休職している人が多い印象がある学校教育は9位でした。
いかに、社会福祉・介護事業で働く人達が、精神的に疲弊しているのかを理解する事が出来ます。
これは、医療業界にも通ずる部分がありますが、多くの人は、ヘルパー・デイサービス・福祉用具等の各介護保険サービスを希望すれば、利用出来るものであると思っています。
そして、サービスを多く使えるように、自分達の思うように動いてくれるケアマネを良いケアマネと認識します。
しかし、ケアマネの仕事とは、サービスを提供する事ではありません。
ケアマネの仕事とは、利用者が、自立した日常生活を送る事が出来るうように支援をする事です。
つまり、ヘルパーもデイサービスも福祉用具も、利用者が自立した日常生活を送る事が出来るようになる為の手段であり、それを利用する事が目的なのではありません。
直接的な表現をすると、頭の悪い人程「単純な世界」を受け入れます。
「単純な世界」とは、全面的に良いか、全面的に悪いかという様な世界観です。
しかし、世界は複雑に成り立っています。
1人が世界を動かしているわけでもなく、1人の人の中にも、良い部分もあれば悪い部分もあります。
「ネガティブ・ケイパビリティ」
不確実なものや未解決なものを受容する能力の事です。
第1条:居宅介護支援事業(ケアマネ事業所)は、要介護状態になった場合においても、利用者が可能な限り居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営む事ができるうように配慮して行われるものでなければならない
ケアマネ事業所の人員及び運営に関する基準の、最初に上記の基本方針が記載されています。
しかし、実態は、この基本方針から大きく離れています。
冒頭のような感情的で声が大きい人の意見を聞き入れてしまい、その介護保険サービスが、翻って利用者の自立を阻害したものになっているにも関わらず、感情的で声の大きい人の要望通りに、自立を阻害する介護保険サービスフルコースの様なケアプランを組んでいるケアマネが多いです。
そして、サービスを多く組み込むケアマネ=良いケアマネと勘違いをしている人が殆どです。
感情的で声の大きい人は、世の中を「単純な世界」と捉えている為、上記の様な抽象度のある概念を理解する事が出来ません。
さらに、悲しい事に、ケアマネや介護関係・医療関係者の多くの方も、同じような傾向を持っています。
その為か、医療関係者程、サービスを入れたがる傾向があります。
これも自分の意見とは異なる意見を言う人=敵であるという世界観を育ててきた「教育」の問題が根幹にあると思いますが、この話はまた別の機会に。
たとえば、ヘルパー。
ヘルパーのサービスは①身体介護②生活援助に分類されます。
①身体介護:排泄・入浴・着替え等、直接利用者の身体に触れる支援等
②生活援助:調理・買物・掃除等、家事の支援
私は②生活援助の殆どは、自立を阻害しているものであると考えています。
上記の基本方針に沿うのであれば②生活援助は、ヘルパーの支援を一部借りたり、ヘルパーから家事のやり方を学び自身で出来るようにしていく事が、利用者の自立を支援する事になります。
しかし、実態は、利用者自身が自分で出来る能力があるにも関わらず、ヘルパーが家政婦の様に、調理・買物・掃除等の支援の全てを実施しています。
これに対し、利用者・家族は「味付けが悪い」「ここが汚れている」等、好き放題言います。
調理・買物は、ネットで必要な物を購入すればいいです。
掃除は、ルンバ等を使用すればいいです。
洗濯は、乾燥機付き洗濯機を購入すればいいです。
時間があり余っている高齢者に1割負担(実際の負担金額は1時間の家事援助で200円程度)で家政婦のようなサービスを提供するのではなく、時間も精神的余裕もない子育て世代に1時間200円程度の家事援助を提供した方が、未来に繋がります。
私は、家事援助のみ利用者負担割合を5割にする。
家事援助の利用期間に、上限を設ける。
生活保護でも、介護保険・医療に関しては、無料ではなく、1割を負担させる等の施策が必要であると感じています。
人は、1度楽を覚えたら、その楽を手放そうとしません。
自分で出来る能力がある、若しくは他の手段を取る事が出来るにも関わらず、週に何日もヘルパーが訪問し、自分の希望通りに家事をやってくれるのなら、その楽を手放したくなります。
これが、結果的に、利用者の有する能力を阻害している事になります。
世の中を「単純な世界」でしか観る事が出来ない人達は、上記のロジックを理解する事が出来ません。
そして、理解出来ない事を言う人=敵であると認識をします。
このように、仕事の本質を理解し、実践しようとするケアマネ程、それを理解出来ない人達からの攻撃を受ける事になります。
その為、若くて能力の高い人程、この業界から離れていってしまいます。
これまでのやり取りを読んで頂けたら理解出来ると思いますが、この仕事で成長していく事は出来ません。そればかりか、成長しようとすればする程、周囲から足を引っ張れらるという構造になっています。
そんな業界を、他に選択肢がある中で、選択をする人がいるでしょうか?
私は、自分で考え行動をする事が出来ない、所謂、日本の「洗脳教育」が作り上げた人には、介護・医療業界は向いていると思っています。
しかし「洗脳教育」に疑問を抱く事が出来るような、自分で考え行動出来る人は、介護・医療業界は向いていないと思っています。
それでも、私自身、仕事の1つとしてケアマネをやっている以上「洗脳教育」に疑問を抱く事が出来るような介護・医療関係者と出逢いたいと願っています。