「豊黒のセッター、ウマいよな。今年の豊黒けっこういいとこまで行くかもね。でもまあ、決勝があの2校だろうけどなー。」
…俺達の1コ上の代まで、最終的に、この2校の争いになる事が多かった…
…北川第一の方は、体格で劣るけれど、スピードやコンビネーションを駆使した巧みな戦い方で華やかに見えた。そのせいか、周りには北川第一を応援する声が多かった気がする…
…ウシワカにはなれないけど、北川第一というチームのようにならなれるかもと思っていたのもあるのかもしれない…
…セッターの俺からすればオイカワも十分化け物だったけど、俺達も平均身長は高くない。目指すべきは、北川第一スタイル…
…それでも思ってしまった。優れたチームワークも、数人がかりの攻撃も、全部捻じ伏せる高さとパワー…
…1番かっこいい。あんな戦い方をしてみたい。下手したら、オープントスだけで勝ってしまうような戦い…
…でも、それはスターが居てできること。そして、同時に疑問が湧いた。あんな凄い素材を前にして、セッターの余分な意思主張は必要無いのではないか?…
「ー俺、白鳥沢に行く。」
「フーン‥は??」
「強い連中が集まるところへ、強いバレーをやりに行く。」
「それで本当に行きやがったよ。もともと成績は良かったけど、更にすげえ勉強してさ‥でもまさか、マジでウシワカにトスあげてるとはな。ただトスは別人みたいだよ。前はガンガン速攻使うような強気タイプだったんだけどな。」
『ハイキュー』白布の高校時代の回想と白布の中学時代のチームメイト兼やんの言葉です。
プレミアを始めとする各国のシーズンが終了し、残すはチャンピオンズ決勝のみとなってきました。
1年を通じて、フットボールを観ていて、1年否2年に1度程度自然と涙が流れるシーンがあります。
母に捧げたランパードのPK、コロナで最も死者が出ていたホームタウンに捧げたアタランタの快進撃、シティでのラストゲームのアグエロの2得点。
「これがメッシ。物語の主役になる男。」
昨シーズン、パリVSリールのメッシのFKと西さんの実況です。
涙には、スーパープレーだけではなく、その物語をサポーターに届ける実況が必要です。
若しかしたら、今シーズン涙する場面が無かったのは、主役がいない事に加え、ABEMAやWOWOWの実況に、物語を届ける言葉がなかったからかもしれません。
チャンピオンズで、私にとって印象的だった事は①ルーカス・バスケス、ナチョという生き方②ケインとダイア―とザネとノイアー③オルサートの涙です。
①ルーカス・バスケス、ナチョは、個人としてのレベルにおいて、マドリーのレベルではありません。
しかし、白布の言葉にあるように、他に世界を代表する素材が集まる中、他の選手の余分な主張のあるドリブルやパス・シュートはいらない場面が多いです。
アリアンツ・アレーナでのマドリーVSバイエルンの試合、カルバハルの代わりに右サイドバックとして出場したルーカス・バスケスのプレイは、ある意味、社会人にとって観るべきプレイでした。
大きなミスだけは犯さないように、そして、殆どの場合安全なパスを味方に繋げ、ドリブルをする事はあっても、それは相手を抜く為でも、得点に繋げる為でもなく、味方がボールを受けやすくする為。
このルーカス・バスケスのプレイは、多くの働く社会人の模範のようであると感じ、気付けば私は90分間彼を応援していました。
冗談半分ですが、私は、ナチョなら1対1で勝てる気がします。
18年ワールドカップ、ポルトガルVSスペイン、ロナウドはナチョを相手に1対1を仕掛け、PKを獲得しています。あれは、相手がナチョである為に選択したプレイです。
それでも、怪我人の続出と、隣にルディがいる事で、ナチョは試合に出場し続け、キャプテンとしてチームをまとめるという大役を全うしています。
自分に出来ない事を認め、出来ない事は仲間を使う事で、自分に出来る事に集中する事で、世界一のチームのキャプテンを務める事が出来るのです。
②ケインのゴール後のお馴染みのガッツポーズを観ると、最早落ち着きます。
ロナウドもメッシもネイマールもいなくなったヨーロッパにおいて、その姿を観るだけで、落ち着く選手の存在は希少です。
そして、ゴール後のガッツポーズを観て落ち着くという事は、ケインが、10年以上に渡りゴールを重ねてきた姿を観ているという実績があるからこそです。
何故か、ダイア―がバイエルンのユニフォームを着ていました。
ウパメカノ、デリフト、キムミンジェと個人の能力ではダイア―に勝るセンターバックがいる中、チャンピオンズ準決勝2試合とも出場していたのはダイア―でした。
ルーカス・バスケス、ナチョ同様、個人の能力だけで優劣が決まるわけではない部分も、フットボールの魅力です。
そして、今シーズン1番笑ったのは、何故かバイエルンのユニフォームを着て、前所属のスパーズのライバルであるアーセナルのホームスタジアムであるエミレーツでダイア―がボールを持つ度にブーイングを受けているシーンでした。
2023年7月国立競技場で行われたシティVSバイエルンの試合を生で観た時、私が最も印象的だった選手は、ザネでした。
頭が小さく足が長いザネの姿は、スタイル抜群の男達が集まるトッププレイヤーの中でも、アスリートとしての能力が頭1つ抜けていると感じました。
マドリーVSバイエルンの1stレグのザネのゴールは、ザネにしか出来ないゴールです。
メンディを置き去りにし、相手選手が迫る中、シュートを打てないだろう距離感の中でも左足を振る事が出来る。メッシを彷彿とさせるゴールは、もっと賞賛されるに値します。
しかし、マドリーとの2戦とも、最初にベンチに下げられた選手もザネでした。
その能力の高さからか、守備をしているにも関わらず守備をしないと言われ、7割程度でプレーしないと周りの選手がついてこれない為7割程度でプレーしているにも関わらず全力でプレーしていないと言われ、その才能に比例した立ち位置を獲得出来ないザネ。
私は、シティにいる時からザネを評価していますが、世界一になる才能があるにも関わらず、周囲のサポートを十分に受けられないと、世界一になる事が出来ない所も、フットボールと仕事を重ね合わせる事が出来る所であり、フットボールの奥深さでもあります。
ノイアーのキャッチングミスは、私はチャレンジした上での失敗であり、何の問題もないと思います。
そのキャッチングからのマイボールにより、ノイアーは、これまで、そのミスの何十倍もチームに貢献してきたからです。
私が、気になったのはノイアーの繋ぎが、チームのポゼッションにプラスになっていない点です。
具体的に言うと、ボーススピードが遅いのと、パスが50㎝程ズレている事です。
フットボールにおいて、確実に数的有利を出す事が出来る場所はGKとセンターバックの繋ぎの部分です。
現代フットボールにおいては、この優位性を、そのままチームの優位性に繋げる事が、コートを制する為の必要条件となっています。
GKが繋ぐ事の先駆けであるノイアーが、自ら先駆者となった戦術で、チームのマイナスとなる。
これも、フットボールの残酷さであり、常に同じ事をしていては、すぐ世界一から引きずり降ろされるという、フットボールの平等な部分です。
③私達のアイドルであるオルサートが、パリVSドルトムントの試合の後、涙していました。
EUROの後、引退を表明しているオルサートは、パリVSドルトムントがチャンピオンズ最後の試合でした。
入場の時ボールを手に持つと同時ボールを上げるお馴染みのルーティン、選手の名前を呼びジャッジの理由を説明する姿、ワールドカップ開幕試合でカウントダウンを無視して自分の時計に合わせて試合開始をするオチャメさ。
チャンピオンズでイタリア勢が姿を消しても、ワールドカップにイタリア代表が出場来てなくても、私達にはオルサートがいました。
例え、イタリアのチームが出場していなくても、オルサートのレフェリングだけで盛り上がる事が出来るのが、イタリア推しです。
是非、オルサートの最後の雄姿は、北川さんの実況で聞きたいものです。
「決断を下すのは簡単じゃない。人々は、僕があと何年かはプレーできるだろうと簡単に口にするからね。おそらくそうだろうけど、だけど以前も言ったように、人々が『なぜあいつはまだプレーしているんだ?』『もうレベルに達していない』と考えるところまで行き着くのは嫌なんだ。ベンチに座って、もう楽しめなくなるのは……。僕はそんなことは望まない。だからこそ最高のタイミングで終わりにしたいし、今こそがその最高のタイミングなんだよ」
最後に今日、クロースが現役引退を発表しました。
また1人、落ち着く選手が、いなくなってしまいます。