どんな想いも、自分から能動的に維持する努力をしなければ、劣化していくのです

 

 …ほんの十数年前の話です。聞くに堪えない問答と、それこそ、殺し合いに発展しかねない泥沼の中で、ある夫婦が破綻を迎えました…

 …そして、娘は父に引きとられ、母の名前を捨てさせられ、父に誓わされました。半ば、無理矢理…

 「二度とお母さんには会いません。」

 

 …でも、半ばというのなら、残りの半分は?どうだったのでしょう?ーそれは本当に、無理矢理だったのでしょうか?少なくとも、娘は口にしたのです。それは、半ば自分の意思で…

 …2年が過ぎ、娘は驚きました。時間は誰にでも平等に優しいのだと。母の顔が思い出せない。どんな悲しみも、怒りも苛立ちも。全ての想いを、時は残酷なほどの優しさで、洗い流してくれたのでした。母への想いすらも…

 『化物語』八九寺真宵の物語です。

 

 

 自分が愛されているかどうか確信が持てない子どもは、自分と両親の意見が異なる時、両親の意見に従おうとします。

 自分の気持ちに逆らうと、大きな孤独感に襲われます。

 ところが、小さな子どもにとって自分自身に逆らうのは、生き延びる上で必要な母親若しくは父親との繋がりを失うよりも、妥当な選択なのです。

 

 しかし、大人になってから、自分と意見が異なる人に出逢う度に、自分の意見を押し殺し、相手の意見の味方ばかりしていてはどうでしょうか?

 自分自身のアイデンティティがない事を知り、自分の存在意義がわからなくなってしまうのではないでしょうか。

 また、結婚に向いていない人の1番の条件として、問題が起きた時にパートナーと向き合う事が出来ない事が挙げられます。

 このように、自分自身の意見を大切にしない事は、パートナーとの関係性を構築出来ない事にも繋がります。

 

 大人になったら、両親は常に近くにいる事は出来ません。

 そのような時、あなたの味方をしてくれるのは誰でしょうか?

 1番あなたの側で、あなたの味方をしてくれるのは、あなた自身なのです。

 

 

 …どんな想いも風化していくのです。だからー娘は、母に会いに行くことにしました。誰にも秘密で。母にすら連絡を入れずに。怖かったからです。嫌われたら。迷惑がられたら。いつでも踵を返して帰れるように。それでも。母が喜んでくれるであろう、昔の思い出をリュックいっぱいに詰め込んで。道に迷わないよう住所を書いたメモを握りしめて…

 …怖かったからです。お母さんに忘れられてしまうことが何よりも。どんな想いも、自分から能動的に維持する努力をしなければ、劣化していくのです…

 …でも娘は、お母さんの元には辿り着けませんでした。信号は、青でした。確かに青色だったのに…

 再び『化物語』八九寺真宵の物語です。