…私は普通じゃないから、皆みたいにちゃんとしないとって、ずっと人の顔色をうかがって、人目を気にして、欲しいものを欲しいと思わずに、言いたいことを押し殺して我慢してきたら、自分の気持ちがわからなくなった…
…私には、やりたいことも、好きなものも何も無い。なりたい自分も、わからない。私に価値ってあるのかな…
「人生って、あと何十年もあるんでしょ‥また、こうやった底まで落ちて這い上がっての繰り返しなの‥?」
…いつまで続ければいいんだろう。このまま思考が途切れて、こんな自分も何もかも無くなればいいのに…
…信じてみようって思った母親に約束を破られて、猜疑心でいっぱいになった。もう傷つくたくないって自分のことばかり考えた。そして、太陽君のこと、あんな風に切り捨てた…
『明日、私は誰かの彼女』雪の脳内言葉と言葉です。

虐待を受けて、下記の7つの心理的特徴を備えたまま親になると、自分の子どもに同じような虐待を繰り返す傾向があります。
①体罰肯定感:子育てには体罰が必要という世界観
②自己の欲求の優先傾向:子どもの欲求よりも自分の欲求を優先する
③子育てに対する自信喪失:自らの子育てに自信を失っている
④子どもからの被害の認知:子どもの行動・存在から被害を被っているという認知
⑤子育てに対する疲労・疲弊感:子育てに疲れ、心身が弱っている状態
⑥子育てへの完璧志向性:子育ては完璧に行わなければならないという認識
⑦子どもに対する嫌悪感・拒否感:子どもを嫌悪したり拒否したりする感情
心理学の分野において「社会的学習理論」と呼ばれるものがあります。
「社会的学習理論」とは、人は他者を観察する事により、自分の考え方や価値観・行動を学習するというものです。
「社会的学習理論」に習えば、人は、親が自分を育てる様子を観察して、子育ての仕方を学びます。
これを解釈すると、人は自分が育てられたようにしか、子どもを育てる事が出来ないという事になります。
上記の7つの「虐待する心に通じる特徴」のうち、特に「②自己の欲求の優先傾向」は「身体的虐待」「心理的虐待」「ネグレクト」「性的虐待」のいずれの虐待とも関連性が強いとされています。
「②自己の欲求の優先傾向」を持つ親は、自分が子どもの頃に満たされなかった欲求を、大人になってから、子どもとの関係性を通して満たそうとします。
幼少時に虐待を受けた親は、有能感に乏しいという特徴があります。
有能感とは、自分は努力をすれば様々な事を乗り越える事が出来る「自己肯定感」の事です。
有能感を回復したいという自分の欲求を満たそうとして、子どもを暴力や言葉・態度等により、支配したりするのです。
また、異性との付き合いを、子育てよりも優先させる事で「心理的虐待」「ネグレクト」に繋がる事も、よくみられます。
「身体的虐待」「ネグレクト」を受けた子どもの身体には、暴力による直接的な傷や、十分な栄養が摂れなかった事による発育不良等、様々な悪影響が残ります。
同時に、否、それ以上に、虐待を受けた子どもの心には身体的な傷以上の、生涯消える事のない大きな傷が残ります。
虐待を受けた子どもの心には「①トラウマ性の障害」「②アタッチメント形成不全による障害」という2つの悪影響が生じます。
「トラウマ」とは、命や存在をおびやかすような衝撃的な出来事により出来る心の傷(心的外傷)の事です。
虐待により生じる「トラウマ」として、代表的なものに「複雑性PTSD」が挙げられます。
「複雑性PTSD」の症状の1つに「自己組織障害」があります。
「自己組織障害」とは、自分の感情・思考等を上手く整理出来ない事で、感情を制御出来なかったり、激しい自己嫌悪を繰り返すような症状です。
たとえば、少し優しくしてくれた人に過剰に依存してしまい、1日に何度もメール・電話等を繰り返すような人が、あなたの周りにもいませんか?
これは、恋愛に限らず、仕事上の関係や友達関係等でも、生じます。
「アタッチメント」とは、親等の養育者への本能的な結びつきの事を指します。
「アタッチメント」は「愛着」と訳される事も多いです。
転んでしまったり、知らない人が近づいてきたりすると、子どもは、本能的に親に近づきます。
上記のような子どもの行動が「アタッチメント行動」です。
子どもの「アタッチメント行動」に対し、親は子どもを抱きしめたり、優しい言葉を掛けたりします。
すると、子どもの不安や恐怖は和らぎ、情緒的な安定性が回復します。
通常の親子関係であれば、幼い頃から上記のような言動を繰り返す事で「アタッチメント」が形成されていきます。
しかし、虐待を受けている子どもの場合、本来は安心感を与えてくれるはずの親が恐怖の源であり、本能的に親に接近したい子どもは、非常に混乱します。
「ネグレクト」の場合は、そもそも親が不在か無関心な為、親からの安心感を得る事が、そもそも不可能な状態です。
いずれにしても「アタッチメント」が正しく形成されません。
その結果、子どもは、どのような言動に出ると思いますか?
子どもは「アタッチメント行動を過剰に抑制するか」「アタッチメント行動を過剰に表出するか」のどちらかの言動を取ります。
「アタッチメント行動を過剰に抑制する」事を「反応性アタッチメント障害」と呼びます。
人にあまえたり、頼ったりする事が出来ず、人からの優しさまで拒否してしまいます。
「アタッチメント行動を過剰に表出する」事を「脱抑制型対人交流障害」と呼びます。
「アタッチメント行動」がいつでも、誰にでも出てしまい、初めて会った人にも過度に話しかけたり、過度に接触してきたりします。
保育園や幼稚園・公園等で、子どもを観察してみてください。
時折、上記のどちらかの言動をする子どもがいる事に気付くはずです。
また、大人になってからも、上記の言動は続く為、あなたの周囲を見渡してみたり、過去を振り返ってみると、思い当たる人が何人かいるのではないでしょうか?
「反応性アタッチメント障害」も「脱抑制型対人交流障害」も、人の気持ちがわからないという共通点があります。
心理学的な表現をすると「共感性の欠如」です。
「共感性の欠如」がある人は、人の気持ちがわからない為、他者と長期的な関係を築く事が出来ません。
「共感性の欠如」は「罪悪感の欠如」とも繋がる事があります。
相手の立場に立って、相手が受けた苦痛や損害等を感じる事が出来ない為、自分の言動を振り返る事も反省する事も出来ず、同じような事を繰り返し、様々な場面で相手に苦痛や損害を与え続けてしまいます。
あなたも、このような人に苦痛や損害を被った経験が、1度や2度あるのではないでしょうか?
そして、悲しい事に、現在の日本は、このような人が生きていきやすい環境になっています。
子どもの頃に虐待を受けて、適切な治療や養育を受けられないまま大人になった人を「虐待サバイバー」と呼びます。
被虐待者の治療や養育が殆どされていない日本においては「虐待サバイバー」は今後も増加していく一方です。
被虐待者は、精神疾患の有病率・犯罪率・生活保護受給率が、いずれも高い事が明らかになっています。
被虐待者が適切な治療や養育を受けられない事は、本人にとっては勿論、社会にとっても大きな損失となります。
人口減少が続く日本。
数が減るのであれば、質で補うしかありません。
1人1人の日本人の質を上げていく事が、日本が世界と戦っていく為に必要となります。
虐待という問題に向き合う事も、日本人の質を上げていく事に繋がるのではないでしょうか?