みんながアンタみたいに強いワケじゃないんだよ。でもそうね‥もし弥美姫が喋れるようになればーまた戦えるのかもね。だって両親(トラウマ)に打ち勝つためには、まず逃げ出した自分自身に勝たないと

 

 「あれから弥美姫の様子どう…?」

 「ダメ…すっかり閉じこもっちゃった…。」

 「な…何でんなことになってんだよ。」

 「あの両親に会っちまったからだよ。弥美姫は、部隊(うち)に来るまで、葬儀屋で育てられてたんだ。あの子にとって、あの両親はトラウマそのもの。彼女はもう…戦えないかもしれない。」

 『赤羽骨子のボディガード』3年4組の会話です。

 

 

 トラウマは頭の中にあるもの、と思っている人が多いです。

 しかし、トラウマとは、身体の中に存在します。

 トラウマは、何かで怖い思いをし、その恐怖を克服する事が出来ない時に起こります。

 その恐怖を解決或いは克服しないままでいると、闘争・逃走反応の状態がずっと続き、身体的にも精神的にも大きな負担となります。

 

 トラウマを経験するという事は、安心感という基本的な感覚から切り離されるという事です。

 その切り離された安心感を繋ぎ直さないと、破壊的なバイアスにより世界観が歪められ、生きていく事が非常に困難になります。

 相手の意図を読み過ぎたり、過剰反応したり、意見が違うだけなのに個人攻撃をされたと思うようになったりと、精神的な戦闘モードの状態が続きます。

 

 

 トラウマを経験すると、脳では何が起きているのでしょうか?

 神経学的にみると、人はストレスを脳の3カ所で処理しています。

 1つ目は偏桃体、2つ目は海馬、3つ目は前頭前皮質です。

 

 心的外傷後ストレス(PTSD)を患っている人は、海馬(感情と記憶の中枢)が小さく、偏桃体(反芻と創造性の中枢)が増大し、内側前頭前皮質(計画や自己の能力開発等複雑な振る舞いを司る中枢)の機能が減少しています。

 以上の脳機能の説明から、トラウマを受けた人が下記のような言動を繰り返す事も理解が出来ます。

  ★脳がきちんと記憶を処理しなくなる為、起きた事の断片しか思い出せず、乖離の要因となる

  ★扱える感情の幅が狭まる

  ★身体が生き延びる為だけに集中する為、自己実現等、高度な機能を生き延びる為に不要と判断し、停止させる

 

 人類が誕生して700万年、人類はその殆どの時間を「マズローの欲求5段階節」の一番下の生理的欲求を満たす為だけに生きていました。

 人類の1番の懸念は、肉体的に生き延びる事でした。

 しかし、現代を生きる私達には、自己実現・意義深い人生にする事・信頼出来る人と長期的な関係を維持していく事、さらに、お金・知識・社交性等を通じて、安心感を得る事が必要です。

 必要なのが上記のような曖昧な領域であるせいで、精神面・情緒面で苦しむ人が増えている事は、想像に難くありません。

 

 では、トラウマとはどのように向き合っていけば、いいのでしょうか?

 この続きは、また後程。

 

 

 「弥美姫ね~昔は、よく喋ってたんだよ。あの子。けどある日、自分の声が母親に似てきたことに気付いちゃって…それからは、一言も話さなくなっちゃった。」

 「トラウマを忘れたくて、そうやって必死に自分を守ってきたの。でも…結局あの親に再会して、また掘り起こされた。」

 

 「だから…戦えねーってのか?あんな奴ら、ぶっとばしちまえばいいだろ。」

 「みんながアンタみたいに強いワケじゃないんだよ。でもそうね…もしも弥美姫が喋れるようになればーまた戦えるかもね。だって両親(トラウマ)に打ち勝つためには、まず逃げ出した自分自身に勝たないと。」

 『赤羽骨子のボディガード』首藤と威吹の会話です。