…「小雪、聞いて。お父さんとお母さん、離婚するの。」…
…え、お父さんとお母さんが、テレビで見るような仲良し夫婦でないことも、だんだん小さい頃に比べて2人が会話をしなくなっていたことも、たまに私の見ていない所で言い合いをしていたことも、本当は全部、全部気付いていた…
…けど、それでも、私がお母さんと仲良くて、お父さんからは愛されているという安心感が、私が2人を繋ぎ止めている自信があったから、大丈夫だって思ってたのに…
…お父さん、本当にもういないんだ‥お父さんにとって私は、いなくてもいい存在なの?…

『氷の城壁』小雪が中学時代の母の言葉と、小雪の脳内言葉です。
♦思春期の心理学
明るい時と暗い時、誰かと一緒にいたい時と1人でいたい時、自信満々な時と落ち込む時、思春期の子ども達の心は、正反対な状態を行ったり来たりします。
思春期の子ども達の心を表現するキーワードは「揺れ動き」です。
一般的に思春期は、10歳前後に始まり、18歳頃に終わります。
10歳前後の小学校高学年になると、男性は精巣から男性ホルモンが、女性は卵巣から女性ホルモンが、大量に分泌され始めます。
これらの性ホルモンが、身体の各所に作用する事で、子どもは、大人の身体へと変化していきます。
これが「第二次性徴」です。
「第二次性徴」が始まると、身体が大人に変化していくのに対し、心の成長が追いつかないという、ちぐはぐな状態になります。
つまり、思春期の子どもの、心の「揺れ動き」は、当然の事なのです。
18歳頃になると、ようやく心の成長が、身体の成長に追いついてきて、思春期が終わるのです。
…「結城~!お前もっと声を出せ。」…
…「はい。」…
…「暗いな~霧中バスケ部は、明るさが命!たとえ試合が劣勢でも、声は出せ!」…
…「はい‥!」…
…「声が暗い!結城は大人しいけど、自分で自分はそういう人間だと決めつけるなよ。楽はするな!自分の殻は自分で破れ!!」…
…「???はい‥。」…
…「ナイスプレー!いいぞーマナツ!」…
…名前呼び…
…「結城先輩と熱川先輩達って仲が悪いのかな‥。」「聞こえるって。」…
…輪の中で馴染めず、どこにいても自分の居場所ではないようで、日に日に自分が自分じゃなくなるような感覚と…

『氷の城壁』小雪の中学時代の回想です。
♦理想と現実のギャップで、自己評価が低くなる
「第二次性徴」が始まると、男の子は筋肉質になり、ひげが生え、声が低くなります。
女の子は、丸みをおびた身体つきになり、胸が大きくなります。
これらは、性ホルモンによる影響です。
身体的変化は、本人だけでなく、周囲からもはっきりとわかる大人への変化です。
客観的にわかりやすい身体の変化に伴い、思春期の子ども達の心の中にも変化が生じます。
それは「自己意識」と「他者意識」の高まりです。
☆自分は、どう見えるのか
★自分は、他の人と比較してどうなのか
「自己意識」と「他者意識」が高まる事で、上記のような思考が強くなっていきます。
これにより容姿・体型等の外見的特徴を、とても気にするようになります。
「第二次性徴」に伴う身体的変化は、自分ではコントロール出来ません。
そこで、思春期の子ども達は、自分でコントロールする事が出来る服装・髪型等を積極的に変え、自分らしさをアピールするようになります。
他者との比較により自信・優越感を感じる事もありますが、劣等感を感じる事の方が多いです。
自己意識の高まりは「こうありたい」という理想を生じさせます。
その為、他者と自分を比較する時に、理想の自分や理想に近い他者と、現実の自分を比較してしまうのです。
理想と現実とのギャップから、劣等感・自己嫌悪感が生じるのです。

奈良女子大学の伊藤教授が、行った自己肯定感に関する結果を示したグラフです。
自己肯定感を表す点数は、中学校入学前に急激に低下し、その後、中学・高校を通して、低い状態が継続します。
この調査は、東京で行われたものですが、東京以外の都道府県でも、アメリカ・中国でも同様の傾向がみられています。
…家のこと‥いつ美姫に話そう…
…「こゆんはさ~五十嵐の何がそんなに嫌なの?ちょっとかわいそう。あんなに好きでいてくれてるのに。好かれてるだけいいじゃん。贅沢だよ。」…
…人と気持ちを共有し合えない空虚感と、もしかすると、自分は誰にとっても「いてもいなくても良い存在」なのかもしれないという不安が、ゆっくりと、じわじわと、心を壊していって…
…あーどうしよ‥部活行かなきゃいけないのに‥立てない。ドアを開けたくない…
…あの時、私は、輪の中にいる方が孤独だった…

『氷の城壁』小雪の中学時代の回想です。
♦脳の成熟時期のズレが、心を不安定にさせる
身体が変化するだけでなく、思春期には、性ホルモンの影響を受けて、脳にも変化が起きています。
思春期になると、脳の中心近くにある「大脳辺縁系」という部位の活動が、急に活発になります。
この続きは、また後程。