「俺は優勝したのに解任された。昨シーズンは4位でもフェスタをしてたじゃないか。」
ユベントス戦を前にした元ユベントス監督、現ラツィオ監督サッリの言葉です。
今シーズンのカルチョは、ヨーロッパ王者でありながらワールドカップ出場を逃した事も遠い過去の出来事ととなり、インテルとミランのミラノ勢のスクデット争いが最終節までもつれるという熱い戦いとなっています。
調子の波が大きかったレオンがシーズンを通して高いパフォーマンスを発揮出来るようになり、テオも左サイドバックながら自らドリブルで敵陣内に侵入するだけではなくゴールまで決めてしまうという、これまでにないサイドバック像を構築しています。
レオンは監督から「お前は、メッシやロナウドにもなれる」と言われても、特に気にかける様子はなく。
テオは、何故かミラノから車で1時間半掛かるコモ湖に自宅を購入し、愛犬が高齢者に噛みついてしまい謝罪の為病院を訪れる等‥。
相も変わらず、カルチョの時間は、笑いとともに流れています。
そんな2人がミランの攻撃の中心である事は言うまでもなく、ミランはテオとレオンのいる左をストロングポイントとし、左と右とのアンバランスが絶妙なバランスとなっている所が強みです。
そして、シーズンも終了に近づくと、愛着のある選手との別れが生じます。
ユベントスのアイコンであるキエッリーニとディバラも、ビアンコネロと今シーズン限りで別れを告げるという決断をしました。
ブッフォン、キエッリーニ、セルヒオラモス。
試合前の相手選手との談笑や握手・ハグ、コイントス時の相手キャプテンへの対応のみで、勝利の確率を引き上げる事が出来る選手は、フットボール史において上記の3選手であると思います。
私は、試合と同じくらい、試合前の選手同士のコミュニケーションや、相手選手とのやり取りを観るのが大好きです。
自分の推しの選手が、相手選手とコミュニケーションを取っている姿を観ていると、自分の子どもが友達と仲良く遊んでいる姿を観ているかのような感覚になってしまいます。
EURO2020準決勝スペイン戦のPKにおいて、イタリアの勝利をもたらしたのは、キエッリーニのコイントス時の対応であると、カルチョファンであれば誰もが納得すると思います。
ラツィオ戦ブラホヴィッチがゴールを決めた後、ディバラマスクのパフォーマンスを見せた時、思わず涙が零れそうになってしまいました。
ディバラは現代フットボールにおける絶滅危惧種であるファンタジスタです。
現代フットボールにおいて、ボールに触れている一瞬だけを観て「センスがある」と感じる事が出来る選手は、ディバラとネイマール位ではないでしょうか。
ディバラの時代が来ると思った瞬間が何度かありましたが、結局ディバラの時代はきませんでした。
時間を作る・ボールの軌道により味方に次のプレイのメッセージを送る・芸術的な軌道を描く左足等、得点やアシスト等のデータに載らない部分にこそ、ディバラの価値はあります。
バッジョ、デルピエロ、ディバラ。
ビアンコネロの10番は、ファンタジスタであるが故に脆く、脆いからこそ一瞬の輝きは誰よりも美しいのです。
「私は決して忘れない。ここで経験したこと、全ての試合、全てのゴールを。ここで一緒に成長し、学び、生きて、夢を見た。12個のトロフィーと、115のゴールという7年間の魔法は、誰も私達から奪うことはできない。決してだ。苦しい時に支えてくれて、ありがとう。」
「キャプテンの腕章とともに、この大切なユニフォームを着ていたことは、私の人生における最大の誇りです。いつか、子どもや孫に見せたいと思います。」
ビアンコネロのユニフォームを着たホーム最終戦を迎える前のディバラの言葉です。
移籍直後のフィジカルトレーニングにおいて、適当に流していたディバラに対し、バルザーリが「ここはユベントスだぞ。」と一喝したという話が語り継がれています。
21歳の若者が、イタリア最強のクラブに移籍し、様々な苦難と向き合いながら、28歳の青年となり、感謝とともにユニフォームに別れを告げる姿は、フットボールファンであれば涙なしには見られない姿です。
まだ28歳。ここからディバラの時代を作る事も不可能ではありません。
次の挑戦地において、ディバラマスクを観れる日を心待ちにしています。