…母はどうやら、その昔、芸能人になりたかったらしい。だから、私にその夢を託した…
…私が売れて、憧れの芸能人とお喋りして、ホームパーティに御呼ばれしたり、一端の業界人を気取れて、どうやら楽しかったらしい。私も楽しかった。何も考えず好き勝手演技していれば、皆が天才子役と持ち上げてくれて、お母さんもニコニコ。私の人生が一番幸せだった時期…
…だからこそ、ママは有馬かなの人気に一番敏感だった。私の人気に陰りが見えてからの母はちょっと大変だった。なりふり構わず営業をかけて、出じろを増やせと現場を困らせて、私にもちょっとなんていうか当たるようになって、お父さんが他の女の人を好きになっちゃったのも、そんな母に嫌気が差したからだと思う。お母さんは、売れてる有馬かなが好きだった。私は、この業界で生き延びなければならなかった。じゃないと…
「もう少し周りと上手くやらねえと、この業界長くやれねえぞ。」
…曲がりなりにも消えずに、この業界でやって来れたのは、カントクの言葉のおかげだ。あの時ああ言われてなければ、とっくに消えていた。私は天才じゃないって知って、大人は演技力より使いやすさを求める事を知って、気に食わない事も全部飲み込んで、生き延びる為に、私は他人に合わせる演技を覚えた…
『推しの子』有馬かなの脳内言葉です。
ダチョウに代表される早鳥類の祖先が分岐しつつあった6,600万年前頃、時を同じくして、ある鳥が空を捨て、海へ進出していきました。
ペンギンの祖先です。
翼が退化した走鳥類とは異なり、ペンギンは、翼が進化した飛べない鳥なのです。
ペンギンは、空を飛ぶ鳥が空気から揚力を得るのと同じ原理で、自ら揚力を得て、水中を移動します。
その為、ペンギンは、水中を飛んでいるのです。
水という空気の800倍も重い流体の中を移動する為、ペンギンの翼は、短くて幅広い骨からなるフリッパーという構造になっています。
これに加え、胸骨と竜骨突起、さらには大胸筋が大きく発達しているという特徴が、水中を飛ぶ能力を支えています。
愛らしいペンギンの外見には、このような理由があるのです。
ここで、ある疑問が生じます。
空を飛べて、潜水も出来た方が、生存に有利ではないかという疑問です。
ペンギンが現在の生態に至るまでには、①空を飛べるが潜水が出来ない→②空を飛べて潜水も出来る→③空を飛べないが潜水は出来るという過程を経てきたと推測する事が出来ます。
おそらく、潜水に特化した場合の損得と、飛翔能力を維持する損得のバランスが、潜水側に傾いた事で、ペンギンは③空を飛べないが潜水は出来るという現在の生態になったと推測出来ます。
歴史を振り返ると、恐竜を絶滅に追いやった白亜紀大量絶滅とペンギンが海に進出した時期が重なる事に、気付きます。
この大量絶滅をきっかけに、『ジュラシックパーク』でもお馴染みの最大全長17mにもなるモササウルス類等の海生爬虫類が絶滅し、サメ類も激減しました。
海に捕食者や競争相手が減った事で、ペンギンの祖先は、潜水に特化する道を選択したのではないでしょうか?
私達の人生や仕事も、トレンドや人気・かっこよさ等ではなく、競争相手が少ない所で勝負をする方が、勝率は高くなります。
生物の進化の歴史から、人生や仕事の選択を学ぶ事が出来ます。
…アンタ達は、楽しそうに演技するわね。見てて、こっちも楽しくなるわ。私は、こっちで良い。その方が、皆喜ぶから。大人の人も、ママも。私は主役じゃなくて良い…
『推しの子』有馬かなの脳内言葉です。