「私たちは身の回りのもの、力の及ばないもの、すべてをカムイ(神)として敬い、感謝の儀礼を通して良い関係を保ってきた。火や水や大地、樹木や動物や自然現象、服や食器などの道具にもすべてカムイがいて、神の国からアイヌの世界に役に立つため送られてきてると考えられ、粗末に扱ったり、役目を終えたあとの祈りを怠れば、災いをもたらすとされてきた。」
『ゴールデンカムイ』アシリパの言葉です。
函館に行ってきました。
目的は、勿論『ゴールデンカムイ』です。
函館で行われているゴールデンカムイ展には、日本各地、否、世界各地から金カムファンが、新幹線や飛行機等を利用して、訪れていました。
絵柄は男性向け、下ネタ満載、グロテスクな描写も豊富という3点が揃うにも関わらず、金カムファンは、女性が多いです。
函館に訪れていた金カムファンも、8割が女性でした。
各自が推しキャラのグッズとともに、聖地を訪れる姿は、すでに日本人の旅行のスタンダードになっています。
近年、アイヌ民族への人々の注目度が高まっています。
その理由として、2020年に日本で8番目の国立博物館となる国立アイヌ民族博物館の設立や、現代社会の中でアイヌ文化を音楽や工芸、芸能等、様々な形で表現されている人達が出ている事も挙げられます。
しかし、最も大きな理由は『ゴールデンカムイ』である事は、誰もが認めるところでしょう。
これまでも、漫画やゲームの世界でアイヌが重要なキャラクターとして登場する事はありました。
しかし、それは殆ど現実から離れたファンタジーのような存在でした。
アイヌ文化に元々興味を持っていた人達の枠を大きく超えて、広く関心には至りませんでした。
そこで『ゴールデンカムイ』の登場です。
『ゴールデンカムイ』は、これまでの漫画と異なり、明治末期のアイヌ社会を真っ向から漫画の中に組み込み、強い意思と魅力と能力を兼ね備えたアイヌを何人も中心的キャラクターとして登場させながら、高度なエンターテインメントにより幅広い読者を獲得していった初めての漫画です。
振り返れば、これだけその地域に密着した漫画もないのではないでしょうか。
私は、おそらく『ゴールデンカムイ』と出逢っていなければ、函館に行く事も、アイヌに興味を抱く事も、ありませんでした。
私以外にも『ゴールデンカムイ』に出逢わなければ、北海道に足を踏み入れなかった金カムファンは多いはずです。
『ゴールデンカムイ』は作品の魅力とともに「日本史」「世界史」「地理」「生物」「政治」等、様々な知的好奇心を満たしてくれ、その中心にはアイヌがいます。
アイヌの世界観は、現代の私達にも通ずる部分があります。
アイヌと聞くと、自然との共生をしていた人達とイメージをされる方が多いと思いますが、それは半分正解で半分間違いです。
彼ら彼女らは、自然と共生しつつも、強かに日本人やロシア人、他の島に住むアイヌ達と交渉を重ねてきた人達でもあります。
その為、自然のものだけではなく、スマホやパソコン、車等も、カムイなのです。
カムイと1つの社会を築いていく事がアイヌの考え方です。
あらゆる道具は、その道具の機嫌を損なわないように使い、使えなくなったら感謝の気持ちを込めて処分をする。
食べ物の大部分は、動物や植物の命の賜物の為、その動物や植物達に感謝をする。
食料品を無駄に買い込んだりしない。水を出しっぱなしにしない。洗剤を大量に使い過ぎない。
このように、私達が自然とやっている事は、人とカムイとの共存という世界観から導き出す事が出来ます。
アイヌの世界観は、過去のものではありません。
寧ろ、現代を生きる私達にとって、不可欠な世界観です。