「愛深き故の憎しみか。多くのサポーターがジュゼッぺ・メアッツァの外でローマのチームバスを迎えた時、ロメル・ルカクに対する大きな笛の抗議をしました。一方、ロメル・ルカクは、ジュゼッペ・メアッツァに入った時、笑顔でした。かつてのフェノーメノ・ロナウドは、ミランのユニフォームを着て、ブーイングをされる中、得点を決めました。果たして、ルカクは、ローマのグラバトーレとして、ゴールを決める事が出来るでしょうか?」
「当初ルカクがボールを持つたびに、インテリスタ達は抗議の為、笛を吹くと決めていました。数日前、イタリアサッカー協会から、笛を持つ事を禁止されました。ただ、その際にもインテリスタは、アプリで笛の音が出るものを用意していると声明を出しています。ジュゼッペ・メアッツァのヒートキャパシティは、すでに沸騰寸前です。」
「数カ月前まで、インテルへの愛を表明していた人間の裏切りに、このクラブに心血を注ぐサポーターとしては専ら受け入れる事は出来ません。今宵、招かれざる客ロメル・ルカクを、ジュゼッペ・メアッツァのピッチに迎えます。」
インテルVSローマの北川さんの実況です。
私は、エバートン時代の若きルカク(ビッグ・ロム)を観た時「この男は、世界一のストライカーになるかもしれない」と感じた事を記憶しています。
恵まれた体格に、相手がボールを触れない場所にボールを置く技術、次の選手が選択肢を持つ事が出来るようなポストプレイ等、得点力は勿論ですが、それ以外の部分に私は魅力を感じていました。
しかし、ルカクのフットボール人生は、順風満帆ではありませんでした。
チェルシー時代は監督との衝突もあり出場する機会が殆どなく、世界一のストライカーになる為にユナイテッドに移籍したものの96試合42得点13アシストというスタッツは立派なものの格上相手には活躍出来ないと度々批判の的となり、インテルにてセリエA得点王・11シーズン振りのスクデットという功績を残し、過去と決着をつける為チェルシーに復帰するものの序盤戦では存在感を示すがその後は低迷し1年で退団する事になり、再びインテルに戻るが、ルカクの保有権を持つチェルシーとインテル側の狭間で揺れ精神的に不安定なままシーズンを過ごしてきました。
ビッグ・ロム自身も語っていますが、移籍の真相は、クラブと本人にしかわかりません。
全てが表に出るわけではない為、サポーターが全てを知る事は出来ません。
しかし、私は、順風満帆ではない男の人生が大好きです。
メッシやエムバぺ、ハーランドのように、クラブや監督・チームメイトのサポートがあれば、ルカクは世界一のストライカーになっていたかもしれません。
否、ルカクだけではなく、そして、フットボールだけではなく、どのような分野においても、そのような知られざる者達が多数存在しています。
私は、そのような人達を支持したいし、そのような人達こそが、フットボール以上の人生を示してくれる存在であると信じています。
イタリアのフットボール、カルチョとは喜劇であると私は感じています。
その喜劇の舞台に、モウリーニョ(ジョゼ)がいない事が残念でした。
20/21シーズン28節、かつての教え子スタンコビッチ率いるサンプドリアとモウリーニョ率いるローマは対戦しました。
この一戦でローマファンは、スタンコビッチに「お前はジプシー(ヨーロッパで生活している移動型民族)だ。」というチャントを起こしました。
人種差別となるこのチャントを止めたのが、ジョゼでした。
ジョゼがチャントを止めた為、ローマに下された罰金は8,000ユーロで済み、結果的にジョゼはかつての教え子とチームを救う事になりました。
「感謝されるような事ではない。私もあらゆるスタジアムで様々な形で侮辱を受けてきた。その度に自分の周りに壁を作って守ってきた。デキ(スタンコビッチ)も同じはずだ。彼は偉大な男で、人としても素晴らしい。彼には子どもも家族もいて、ああいうのは良くない。ティフォージ(サポーター)はいつだって素晴らしいが、あの瞬間は自分の本能に従うべきだと思った。友人には触れてはいけないんだ。」
ジョゼの言葉です。
90分の中でフットボールを作る事に関してはジョゼは力量不足になっているかもしれません。
しかし、90分以外の所で、フットボールを作る事に関しては、いまだに世界一です。
インテルの最も輝かしい時代を作った男が、インテリスタからどのように教え子を守るのか。
このようなフットボールの見方が出来るのが、カルチョの魅力です。
北川さんもこの事を熟知している為、上記の実況の主語がインテリスタになっています。
様々な角度から楽しむ事が出来る事が、フットボールの魅力です。