ノーベルとニトログリセリンの物語

 「不平等な現実のみが平等に与えられている。因果応報は、全自動ではない。悪人は、法の下で初めて裁かれる。呪術師は、そんな報いの歯車の一つだ。少しでも多くの善人が、平等を享受できる様に、俺は不平等に人を助ける。」

 「俺は正義の味方じゃない。呪術師なんだ。」

 『呪術廻戦』伏黒の言葉です。

 

 最初の人類は、約700万年前アフリカで誕生したと考えられています。

 約300万年前より、直立二足歩行により自由になった手で、石器等の道具を使うようになりました。

 そして、約100万年前より、火を使い始めたと考えられています。

 人類が手に入れた火は、夜の闇を照らす明かりとあたたかさを与えてくれ、動物等から身を守ってくれました。

 また、火を使った料理により、肉等のタンパク質を摂取しやすくなりました。

 人類の脳が拡大し始めたきっかけも、火を使った料理をするようになり、タンパク質の摂取量が多くなった為であると考えられています。

 

 火が生じる現象である燃焼とは、物質が光や熱を放ちながら酸素と激しく反応する酸化反応の一種です。

 人類は、燃焼という化学反応を利用して、文明を発展させていきました。

 

 近代になると、激しい燃焼現象を起こす物質が、火薬や爆薬として、鉱山の開発や戦争等に用いられてきました。

 最も有名な爆薬は、1866年にノーベルが発明したダイナマイトです。

 ダイナマイトの原料は、ニトログリセリンという無色透明の液体上の物質です。

 ニトログリセリンは、窒素と酸素が分離した時に生じたエネルギーが爆発の元になっています。

 しかし、ニトログリセリンには、熱や衝撃に敏感で扱いずらいという欠点がありました。

 その欠点を克服する為に、ノーベルは試行錯誤を繰り返しました。

 最終的にノーベルは、ニトログリセリンを珪藻土という藻類の一種である珪藻の殻の化石からなる堆積物に、染み込ませる事で安定化に成功しました。

 

 1870年代ニトログリセリン生産工場では、不可解な現象が起こっていました。

 工場労働者達が、勤務中に強い頭痛を訴えたのです。

 また、勤務中には狭心症の発作が起きないにも関わらず、自宅に帰宅すると狭心症の発作が起こる工場労働者が複数いました。

 この事から、ニトログリセリンの血管拡張作用が発見され、現在でも狭心症の薬としてニトログリセリンが使用されています。

 頭痛は、頭部の血管が拡張して周囲の神経を刺激する事で生じたと考えられます。

 

 ニトログリセリンの実用化に成功し、巨万の富を築いたノーベルは、晩年心臓病を患いました。

 ノーベルは、病院を受診すると、医師からニトログリセリンの投与を受けました。

 これに対して、ノーベルは「何という運命のいたずらだろう。」と手記に書き残しています。