「どうよ一年の様子は?やっぱり上位狙えそうなのは大喜か?」
「実力的にはそうだろうな。」
「含みあるな。」
「‥いや、俺と試合しすぎてんのが、良くないのかな。良くも悪くも挑戦者なんだよな。真っすぐに突き進めるのは、大喜のいいところだと思えるけど、挑戦者って負ける割合が多めで勘定されてるっていうか、自分が強いという自信が感じられない。」
「ウサギと亀って話あるだろ。ウサギが調子乗って、亀にレースで負ける話。大喜はそれはそれは立派な亀だと思うけど、世の中にはサボらないウサギもいるんだよ。まあ俺のことなんだけど、そんな俺らに勝つには亀じゃない化ける必要があるかもな。」
『アオのハコ』西田と針生の会話です。
「感傷的になってしまう事を許してくれ。ここを出発してから、僕は多くの事を経験してきた。少年としてここを離れ、妻と4人の子どもを連れて戻ってきた。家族にも、ありがとうを。そして、もう3人、恩人のアントニオ・プエルタ、ゆりかごに揺られている時からセビジスタにしてくれた祖父、今の僕に育ててくれた父‥。引退の時がきた時、僕達は、ここの正面玄関から去るのに値する。」
18年振りにセビージャに復帰したラモスの言葉です。
ロナウドが去り、メッシが去り、ネイマールが去り、ラモスも去るのかと思い、私は、興奮しないチャンピオンズ組み合わせ抽選会について記しました。
しかし、ラモスがセビージャに復帰した事で、今年のチャンピオンズへの静けさが情熱へと変化しています。
このように、人の心を動かしてしまう選手の存在が、フットボール界を支えていると私は信じています。
挑戦者はその真っすぐな心ゆえに、敵がいません。
しかし、王者は違います。
敵がいるからこそ、王者なのです。挑戦者は敗れても拍手を送られますが、王者は敗れれば罵声を浴びます。
この事が、挑戦者が負ける割合が多めで勘定されており、王者は負ける割合が勘定されていない事を物語ります。
ラモスもセビージャ復帰により、セビージャのウルトラスより強く非難をされています。
これに対し、ラモスは過去の行動を謝罪し、加えて「僕はセビジスタが胸につけているエンブレムを守るために、そして、僕達が同じ船のクルーである事を示し、そのような意見を持っている人々を変えるためにここに来た。」とメッセージをしました。
誰が何と言おうが、俺がやると決めたからやる。
周囲の意見等関係なく己の道を進む男の存在というのは、現代においては希少です。
そして、その姿こそ、我々が憧れ、我々の生活に希望をもたらし、我々が絶望した時に背中を押してくれる、王者の姿です。
スペイン代表において、EURO連覇・ワールドカップを勝ち取り、マドリーではチャンピオンズ3連覇、パリでもリーグアン2度の優勝を果たした王者の姿を再び、ヨーロッパで観る事が出来る事に、私は喜びを噛み締めています。
過去6年間、私が最も観てきたチームはパリでしたが、今年はセビージャになりそうです。
エミレーツでガナーズの若者達に対し「早く立て」といつものジェスチャーで圧力を掛けるラモスの姿が、すでに脳裏に過ぎります。
20年以上、常に隣にいた男の物語を、エンドロールまで共に歩む事が出来る事は、フットボールファンの何よりもの宝です。