「黙れスナッフィー。てめぇの創るこのチームはたしかに優秀だ‥凡人がサッカーするにゃ最高の環境だ。でもな‥馬狼(おれ)が生きるには、絶望が足んねぇよ。」
…俺は潔に負けて、己の非力に心の底から絶望したんだ。だからこそ、変われた。狂えた。這い上がれた。なのに、ここはなんだ?最善(ベスト)な選択肢があります?失敗したら指導者(マスター)のせいです?…
…そんな保証された未来のために、俺は生きない。世界一の希望を抱くなら、それ相応の絶望を天秤にかけろ。失敗したら世界中が俺を笑い、人生が狂っちまうほどの絶望の先にこそ、魂を奮わす栄光(ゴール)がある…
『ブルーロック』馬狼の言葉と脳内言葉です。
ある男は、ワールドカップで逆転ゴールを決め「生涯で最高の日だ。」とインタビューで歓喜の涙を流していました。
しかし、試合後そのゴールの直前、その男が相手選手に噛みついていた事が明らかとなり、男は4か月のサッカー活動禁止を言い渡されます。
男は、以前にも、2度相手選手に噛みついていた事がありました。
その男は、噛みつき事件後、バルサに移籍し、最初こそ苦しみましたが、6シーズンで191試合出場147得点という驚異的な実績を残しました。
しかし、ヨーロッパでバルサが戦えなくなっている事の戦犯とされ、これだけの貢献をしてきたにも関わらず、突如戦力外通告を出されます。
翌シーズン、その男はアトレティコに移籍し、見事リーガチャンピオンを獲得し、バルサ、否、世界中にリベンジを果たします。
スアレスの物語です。
現在のヨーロッパのフットボール、否、日本を始めとする世界中の大人達に、上記のような希望と絶望を天秤に掛けるような覚悟のある人がいません。
私は、人生が狂う程の絶望を進み、その先にある栄光を掴む男の背中に、心惹かれます。
「僕は思うんだよ。これだけ可愛い子が居る業界で、その中でも特別に可愛いと言われる子が、生まれるのはなぜなんだろうって。」
「なぜなんだ?」
「ずばり可愛さの説得力。有名なアイドルグループに所属していたり、何かの賞を獲っている子は実物以上に可愛く見えるものだろう?それと同じ。」
「私は特別に可愛いという嘘を信じさせてくれる説得力。僕はそれをスター性と呼んでいる。」
『推しの子』の言葉です。
2001年からチャンピオンズリーグ組み合わせ抽選会に興奮していました。
予選の組み合わせから、スタジアムの雰囲気を妄想し、試合前の選手同士の談笑を妄想し、キャプテン同士の覇気の違いを想像し、そして、アンセムが流れた時に映る選手達のスター性を妄想する。
予選の組み合わせが決定すると、私はいつも上記のような妄想をし、期待と恐怖を行ったり来たりしていました。
しかし、今年のチャンピオンズリーグ組み合わせ抽選会には、上記のような期待と恐怖がありませんでした。
これは、初めての経験です。
その1番の理由は、スターがいないからです。
ロナウドが去り、メッシが去り、ラモスが去り、ネイマールも去ってしまったチャンピオンズは、どこか悲しいものです。
戦術は進化し、フットボールの質も、どのチームも進化しています。これは素晴らしい事です。
しかし、その進化により、スターという圧倒的な個性が締め出されてしまいます。
私は、フットボールの戦術を観る事が大好きです。
日本のフットボールが進化出来ないのは、子どもを教える指導者が、戦術の理解が出来ていないからであるとも思っています。
しかし、私は戦術以上に、スターが大好きです。
20年以上当たり前のように逢う事が出来ていたスター達に逢う事が出来ない。
私自身、フットボールとの付き合い方を、考え直す時期にきているようにも感じています。
それでも、私は願っています。
絶望を天秤にかける男の誕生を、俺は特別だという嘘を信じさせてくれるスターの誕生を。