私が、乃木希典を初めて知ったのは、大学生の時に『坂の上の雲』を読んだ時でした。
日露戦争、二百三高地にて無策で突撃を繰り返し、多くの死者を出した乃木の無能さに驚いた記憶があります。
しかし、これも事実ではあるでしょうが、司馬遼太郎が創り出した創作です。つまり、『坂の上の雲』から見る乃木は、その断片でしかありません。
乃木を世に知らしめた出来事として、明治天皇が亡くなった後、その後を追うように自害をした殉死が挙げられます。
明治から大正に時代が大きく動いて当時、乃木の殉死には賛否が分かれました。
森鴎外は絶賛し、芥川は「時代遅れである。」と批判しました。
世間の批判を消そうと鴎外は、数日で主君との強い絆を描いた小説を書きあげます。
また、漱石が発表した『こころ』からも、乃木の殉死に対する漱石なりの表現を垣間見ることが出来ます。
これまで信じてきた考えが崩れ去りながらも、新しい考えを受け入れることも中々出来なかった時代に、文豪は書くことにより抵抗していたのかもしれません。
芥川は、その時代を象徴するかのように、聖書を横に置き、自殺をします。
そして、現代でもヤングジャンプ連載の『ゴールデンカムイ』は二百三高地の生き残りが、北海道に眠る金塊を狙うという物語であり、毎週のようにファンを楽しませてくれています。
死して尚、乃木は、問いを投げかけ、現代まで影響を与え続けます。