今でも気持ち悪い攻めが好きです

 

 「ま、何事も最初に評価するのは、勇気がいる。海のものとも山のものともしれない新人を褒めて、結果見る目がないと嗤われるのは誰だって嫌だからな。」

 「一流のクリエイターたちの評価に加え、老舗写真雑誌の編集長が太鼓判を押したことで、ようやく世間の連中も安心しておまえを褒められるようになったってことだ」

 

 「評価って、そんな簡単に変わるものなんですか?」

 …信じられない気持ちで問うと、変わる、とあっさり言われた…

 

 「仕掛ける側が金を力を注げば、ある程度のスターは作れる。逆に撃ち落とすこともできる。レジェンド級は無理だが、まあそこそこの星なら。」

 「‥そうなんですか」

 「落ち込むってことは、さてはおまえ自分を天然の天才だと思ってたな?」

 …冗談めかした、しかしどきりとする言葉だった。自分でも気づいていなかった無意識の傲慢さ。清居とは別の意味で、野口はいつも平良の芯を抉ってくる… 

 『儘ならない彼ー美しい彼4』の一説です。

 

美しい彼」ポスター - ドラマ「美しい彼」ビジュアルブック発売、萩原利久と八木勇征が原作の表紙再現 [画像ギャラリー 2/19] - 映画ナタリー

 

 

 ジュンク堂池袋において、本の売れ筋ランキングで『呪術廻戦』『名探偵コナン』『ブルーロック』を抑え、1位になっていたのが凪良ゆう5年振りのひらきよ物語『儘ならない彼ー美しい彼4』でした。

 

 2度の本屋大賞受賞に輝き、映画化もされている『流浪の月』『汝、星の如く』等の、凪良作品は、本屋で特集を組まれる事も多くなりました。

 BL(ボーイズラブ)ではない凪良作品も素敵な言葉が散りばめられ、独特の世界観を提供してくれるものの、やはり最も筆が乗っているのは、BL作品です。

 

 

 

 …今でも気持ち悪い攻めが好きです…

 …十年前には全く需要が見込めない萌えでしたが、自分が楽しいから書こう、担当さんごめんなさい、という気持ちで生まれた『美しい彼』という物語…

 

 …まさかの続刊を打診していただき、それどころかドラマCD企画までいただき、『憎らしい彼』『悩ましい彼』さらに番外編集『interlude』が出たのが2021年。その同じ冬に映像化となり、その後もコミカライズ化など、十年前には想像もしなかった展開が続きました…

 …ここ数年で地上波でのBLドラマがどんどん増えて、以前とは比較できないほど市場が広がり、一般層への認知度もぐんと上がりました…

 

 …ジャンルの劇的すぎる転換期に、現役のBL作家として活動できたことは、とんでもない幸運だと感じています…

 『儘ならない彼ー美しい彼4』のあとがきです。

 

 

 …気持ち悪い攻めが好きです…

 お決まりのあとがきを見ると、最早嬉しさよりも、落ち着きを感じてしまいます。

 私が、作品の前に、あとがきを見る作品は『JUMP』と『美しい彼』だけです。

 

 

 BL市場の規模は、商業BL(コミックや小説など)が年間約180億円、二次創作(同人誌など)が約100億円と推定されています。
 
 BL市場は拡大しており、特にBLドラマの分野で変化が顕著です。
 
 2023年には約15本のBLドラマが放送され、過去最高の本数と言われています。

 
 
 BL市場の客層は、日本では10代~60代までの幅広い年齢層に支持されていますが、海外ではファンのメイン層が10代~20代となっています。
 
 BLを愛好する女性を指す「腐女子」という言葉が一般的になりつつあり、男性のファン層も増加傾向にあります。
 
 
 
 BLが世の中に浸透してきている事は、社会の成熟とイコールであると思います。
 
 仕事で成功をする為にも、人生で幸福を感じる為にも、自分の性に正直になる為にも、必要となるのは「誰も個人を責めない土壌」です。
 
 
 仮説を立て、検証をし、失敗を認め、修正をする。
 
 仕事においても、人生においても、性においても、必要なのは、上記の繰り返しです。
 
 
 そして、対人(たいひと)との間で、上記を繰り返す為には「誰も個人を責めない土壌」が不可欠です。
 
 
 
 BLが浸透してきた成熟した部分がある一方で、ネット上や個人の噂話の範疇では成熟とは正反対の意見が飛び交っています。
 
 
  ★あの人は、昔あんな事を言っていた
  
  ☆あの言葉は、パワハラだ
 
  ★昔は賛成派だったのに、今は反対派に寝返っている
 
 
 上記のように、過去の言動を引っ張り出し、現在の状況に当てはめ、矛盾を指摘するような人や場面を、度々見かけます。
 
 厄介な事に、その行為が、あたかも正義であるかのようにも扱われます。
 
 
 
 人が、時間とともに、考えを変える事は、自然な事です。
 
 意見だってコロコロ変わる事は、当たり前です。
 
 周囲の人にはわからなくても、本人の中には、一貫性があるのです。
 
 
 それにも関わらず、何故、過去と同じ考えを持ち続けないと、いけないのでしょうか?
 
 
 
 これこそが、日本人の意思決定に対するネガティブなイメージを作り上げています。
 
  
  ★言わぬが花
  
  ☆意思決定は怖い
 
 
 ここで必要となるのが「誰も個人を責めない土壌」です。
 
 
 
 この世に、常に、正しい人等、誰もいません。
 
 誰もが間違いをするし、勘違いもします。
 
 正義感により、矛盾を指摘するような言動は、意思決定をしない人を育てるだけ、つまり、将来の日本の未来を失わせる行為と同義語なのです。
 
 
 「多様性」という言葉だけが先走る世の中で「多様性」を学ぶ為に、何が必要なのかという問いに対し、答えられる人は、殆どいないのではないでしょうか?
 
 上記の問いに対する、私からの答えは、BL作品を読む事です。