「及川さんは何でアルゼンチンですか?」
「…小学生の時にさ、仙台が会場だった日本VSアルゼンチンの試合を観に行ったんだよね。当時アルゼンチンには若いスターの卵エースが居て、大会序盤は大活躍してたけど、中盤からだんだん調子を落としてた。日本戦でもイマイチで、そろそろ交代かなって時、セッターが代わった。」
「当時もう38歳になるベテランのセッター。その人は終始穏やかで、若手エースに集めすぎず、でも打ち易いセッティングで決めるところは決めさせて。スターの卵は、みるみる調子を取り戻し、その試合で最多得点。会場は、若手スターの復活に沸いたけど、俺にとってのスターは、エースをひっそり立て直して、あっさりコートを去って行った、ホセ・ブランコだった。」
『ハイキュー』日向と及川徹の会話です。
パリVS川崎フロンターレ、国立競技場で観戦していた64,000人のうち何人が、ベルナトのプレイでメッシが輝きを取り戻した事に気付いたでしょうか。
最近数年間メッシはボールロストをする事が多くなり、メッシのリズムが試合のリズムになる事も少なくなりました。
川崎戦も、私の目に映るメッシは輝きを失ったメッシでした。
しかし、後半左サイドバックにベルナトが入る事で、メッシは輝きを取り戻します。
ベルナトは、私でも成功させることが出来るであろう最高のタイミングでメッシとワンツーを成功させ、見事2点目を演出しました。
64,000人のほとんどの人は「流石メッシ」等と思っていましたが、あれはベルナトが相手の視線・ボールを置く位置・メッシの立ち位置まで全て計算したからこそのものです。
18-19チャンピオンズ、当時私の推しであったナポリは、グループステージでパリとリヴァプールと同組に入る、死のグループを戦いました。
最終節まで決勝トーナメント出場チームが決まらない三つ巴の戦いは、ナポリがパリをリードし、ナポリとリヴァプールの決勝トーナメント出場が決定的でした。
私自身も手に汗握り、ナポリの決勝トーナメント進出を願っていました。
しかし、その状況を打破した選手がいました。
その選手は、ネイマールでも、エムバぺでも、ディ・マリアでもなく、ベルナトでした。
ベルナトのゴールにより、ナポリの決勝トーナメント出場は叶わず、パリとリヴァプールが決勝トーナメント出場を果たしました。
バルセロナでは、歴代バルサNO1サイドバックであるジョルディ・アルバが試合に出場する事が出来ない状態が続いています。
アルバの実力の問題ではなく、チームという複雑な生き物が、世代交代若しくは新陳代謝を求めた結果のものです。
シャビも、イニエスタも、バルサ最後の1年間は、試合に出場できない事が多かったものです。
名前だけでは試合に出る事が出来ない事も、実力社会の魅力です。
オフサイドにならずにスピードを落とす事なく走る為、縦ではなく、斜め若しくは横に走る、これを毎試合出来るサイドバックは、ベルナトとアルバだけでしょう。
ボールに触れずとも、その走る角度から、どれだけフットボールを深く考えているのかを知る事が出来る選手は希少です。
単純な身体能力だけであればベルナトよりヌーノ・メンデスの方が、アルバよりマルコス・アロンソの方が高い事は明確です。
しかし、身体能力だけで優劣が決まらない事が、フットボールの魅力です。
私は、走る角度だけで唸らせてくれる職人のようなサイドバックが大好きです。
「俺は、この人から学ぶって決めた。そしたら翌年からアルゼンチンに戻っちゃってね。まあ海外には絶対挑戦することになるし、それがちょっと早くなっただけ。行きたい舞台(ばしょ)は、どうせ変わらない。」
『ハイキュー』及川徹の言葉です。