君に読む物語

 

 …吾輩は、虎である。名は、苛虎。どこで生まれたのかは、見当がついている。じめじめしたところで、しくしく泣いていた…

 …暑い盛りのようであった。この水がなければ、あの女はこの時、ここで死んでいたはずだ。あの女の母親とやらが、あの女にしてやったのは、これだけであった…

 

 …あの女に餌を与えるだけの役目の人間どもは、何度も何度も何度も何度も変わった。あの女が愛されたことは、一瞬もなかった。あまねくあらゆる親たちからも、虐げられて遇された。しかし、あの女は泣かなかった…

 …代わりに、吾輩の目から水が溢れた。その水はずっと流れ続けた。17年、溢れ続けた。あの女が笑うために。すべて忘れて、水に流すために…

 『化物語』苛虎の脳内言葉です。

 

 

 心理学者のポール・スロヴィッツは、慈善団体への寄付を募る実験を行いました。

 1つ目のグループには、アフリカのマラウィに住むロキアというやせ細った子どもが懇願するような目を向けている写真を見せました。

 2つ目のグループには、300万人の子どもが食糧難で苦しんでいるとマラウィでの飢餓状態を伝える統計の数字を見せました。

 

 1つ目のグループの寄付額は、平均2,5ドルでした。

 2つ目のグループの寄付額は、平均1,25ドルでした。

 この結果を、どのように捉えるでしょうか?

 

 

 食糧難の規模が明確になっている文、2つ目のグループの方が、1つ目のグループを上回る寄付の額が集まるのではと感じたのは、私だけでしょうか?

 しかし、人の心は、そのようには反応しません。

 統計の数字を見ても私達の心は動かしません。心を動かすのは、人なのです。

 

 メディアはその事を随分前から熟知しており、会社に関する記事であれば代表取締役の写真が、国に関する記事であれば総理や大統領の写真が、災害に関する記事であれば犠牲者の写真が、その記事の見出しとなります。

 

 

 誰かの悲惨な状況について聞かされた時は、慎重になった方が良いです。

 その背後にある事実や統計的な分布等について、尋ねるようにしましょう。

 それでも、その人の悲惨な状況に心を動かされないわけにはいかないかもしれませんが、少なくとも正確な状況を把握出来るようにはなります。

 

 これに対して、あなたが人々の心を動かし、注目を集め、目標達成の為に協力を仰ぎたい時には、あなたの活動に十二分に人間味を加味する事をお勧めします。

 

 

 人は、相手が持つ温かさと優秀さの2点において、他者を評価します。

 そして、まずは温かさで評価します。この順番を間違えない事です。

 優秀さは、温かさの後から評価されます。