嘘に嘘を重ねなきゃいけなくて、どんな辛い事があっても、ステージの上で楽しそうに笑わなきゃいけないお仕事。

 

 …死んでしまいたいと思う事ばかりのこの世界で、悲しい事に遭わずに生きる事なんて、きっと出来なくて、世界は真っ暗で、明日に希望も無くて、夢も持てなくて、そんな人達が溢れに溢れてるこの世界で、ルビーちゃんは、ずっと泣いていたよ…

 

 …ルビーちゃんは、誰より泣いて、泣き続けて、それでも立ち上がったよ…

 …歯を食い縛って、心の整理なんて出来ないまま、何も救われないまま、苦しさも、悲しさも、抱えたまま、駆け出したよ…

 …私達は、生きていく事を選んだよ…

 『推しの子』黒川あかねの脳内言葉です。

 

推しの子】」第123話「悪手」公開! ルビーがこれまで胸に秘めていた本音を語る - GAME Watch

 

 

 11月14日発売の『ヤングジャンプ』にて『推しの子』が、最終話を迎えました。

 『僕のヒーローアカデミア』『呪術廻戦』に続き、またも、私の中にあった「当たり前の日常」が、なくなってしまいました。

 

 『推しの子』の終幕には、誰もが、納得出来なかったのではないでしょうか?

 否、作品の中のキャラクターや読者を納得させず、心の整理等出来なくても生き続けなければいけないという現実を、教えてくれるのは或る意味『推しの子』らしい終幕かもしれません。

 

 

  ‥「誰かを好きになることなんて私分からなくてさ」‥
  ‥嘘か本当か知り得ない‥
  ‥そんな言葉にまた一人堕ちる‥
  ‥また好きにさせる‥
 
  ‥誰もが目を奪われてく‥
  ‥君は完璧で究極のアイドル‥
  ‥金輪際現れない‥
  ‥一番星の生まれ変わり あぁ‥
  ‥その笑顔で 愛してるで‥
  ‥誰も彼も虜にしていく‥
  ‥その瞳がその言葉が‥
  ‥嘘でも それは完全なアイ‥
 
 
 アニメ『推しの子』シーズン1主題歌『アイドル』の歌詞です。
 
 
 2023年6月、アニメの大ヒットに伴い『アイドル』は、日本語楽曲の歌として、初めてアメリカ・ビルボードで1位を獲得しました。
 
 
 
 1970年代、高度経済成長期にあった日本において、家族との繋がりは徐々に薄くなっていきます。
 
 それまでは、家族の影響を受けて、髪型や服装を選択してきた若い世代が、アイドルの影響を受けて、髪型や服装を選択していくようになりました。
 
 これにより、東京を中心として、若い世代の髪型や服装は、アイドルを真似たものになっていくという、アイドルの社会への影響力が強くなっていきます。
 
 
 1970年代のアイドルは、自分を殺して人形のように振る舞う事が求められてました。
 
 これにより、アイドルは仮面を被り、何度も何度も仮面を被った同じ役割をしていきます。
 
 しかし、仮面を被り、何度も何度も仮面を被った同じ役割をする事で、アイドルは、2年若しくは3年で辞めていくサイクルが繰り返されていきます。
 
 
 
 1980年代、女性は20代で会社を辞め、結婚をし、子どもを産むという社会からの圧力が、強い時代が続きます。
 
 ここで「おニャン子クラブ」が登場し、等身大のアイドルとして、アイドルにも人生を選択する自由があるというアイドルが登場します。
 
 
 さらに『なんてたってアイドル』を歌う「小泉今日子」が、登場します。
 
 「小泉今日子」のプロデュースは、表も裏もあってアイドルであり、化粧をしていない姿も見せていき、素の自分を魅せるアイドル像が誕生します。
 
 しかし、日本のアイドル市場は、バブル崩壊ととともに、長い低迷の時代に入ります。
 
 
 
 
 2002年「t.A.T.u」がロシアから誕生します。
 
 ソ連崩壊から10年。
 
 経済が回復すると思われていたにも関わらず、ロシアの経済は回復しませんでした。
 
 
 そこで、社会に反抗するレズビアン・カップルとして、演出された2人が、世界を席巻します。
 
 2000年代に入り、最も多様性の少ない業界であるアイドル業界から、多様性を取り入れた人物が、誕生した事は、面白い事です。
 
 「Mステ」オープニングにはいたにも関わらず、歌わず帰ったとされた出来事。
 
 騒動から10年後、あれはプロデューサーの意図であったと、激白されています。
 
 
  
  ‥はいはい あの子は特別です‥
  ‥我々はハナからおまけです‥
  ‥お星さまの引き立て役Bです‥
  ‥全てがあの子のお陰なわけない‥
 
  ‥洒落臭い 妬み 嫉妬なんてないわけがない‥
  ‥これはネタじゃないからこそ許せない‥
  ‥完璧じゃない君じゃ許せない‥
  ‥自分を許せない 誰よりも強い君以外は認めない‥
  ‥誰もが信じ崇めてる‥
 
 
 
 経済低迷、パソコン・携帯電話・スマホの普及による他者との直接の関わりの減少。
 
 社会がアイドルに求めたのは、孤立感を埋めてくれるアイドルでした。
 
 そこに登場したのが「AKB48」です。
 
 
 会いに行けるアイドルとしてAKB48は、握手会を開催する事で、孤立感を埋める事に成功します。
 
 アイドルを支持する人達は、アイドルとコミュニケーションをする事を求めていくようになっていきました。
 
 
 そして「総選挙」を開催します。
 
 CD1枚につき1枚の投票権を獲得し、自身の指示する「推し」に投票をし、その推しの人生を変える事に、加わる事が出来るようになりました。
 
 ファンに、アイドルの人生を委ねるという形を取る事で、ファンには、これまで以上の熱狂をプレゼントする事に、成功しました。
 
 
 アイドル市場という視点で見ると、大きなデータを取る事が出来るようになった時代、プロデューサーが考える市場予測よりも、ファンに市場を委ね、その市場を観察していきながら、プロデューサーが微調整をしていく方が、安定した結果を出す事が出来るようになった事も「AKB48」が社会現象となった1つの要因でした。
 
 
 
 アイドルの寿命は、1年~2年。
 
 そして、人気が出る人と出ない人の差が、明確に出る仕事。
 
 表には出ませんが、そこには、当然、人のネガティブな感情がつきまとうもの。
 
 
 そのネガティブな感情を、見事に描き切った作品が『推しの子』です。