子を想うが故に溢れた親心

 

 ー長く久しいと書いて長久命。それを長く助けるで長助。これは私に男の子が出来たらつけようと思っていた名だなー

 

 「朱音は、予定日より早く産まれたの。徹は、地方で仕事でさ。病院に着いたのは、あんたが生まれた次の日の夕方かな。」

 

 「なぁ‥真幸。この子の名前、朱音ってのはどうかな?」

 

 「朱に染まる空を見て、思いついたって。あと朱って色は、長寿の意味もあるんだと。そういう意味も込めてるってさ。」

 「色々考えてんだね。」

 「当たり前でしょ。テキトーに子どもの名前つける親なんていないよ。」

 『あかね噺』寿限無の一幕と朱音の母の言葉、出産時の父の言葉、そして朱音の母と朱音の会話です。

 

 

 自分の名前は、一番読み書きし、耳にする言葉です。

 心理学に、ネームレター効果というものがあります。

 人は、無意識に自分の名前を好ましく感じています。

 その為、ひらがな50音に、それぞれ点数をつけるという実験で、自身の名前に含まれる文字に高い点数をつける傾向がある事が証明されています。

 

 たとえば、多数の人がそれぞれ雑談をしている中でも、自分の名前が呼ばれると反応する事が出来ます。

 この現象は、カクテルパーティー効果と呼ばれています。

 それだけ、自分の名前に対して、無意識に愛着を感じているのです。

 

 「おはよう。」「おはよう○○さん」

 どちらの挨拶が嬉しいでしょうか?

 多くの方は、後者の方が嬉しく感じると思います。

 会話の途中で、相手の名前を入れるだけで、相手は、自分の存在を認められたと感じます。

 名前を呼ぶだけで、相手の承認欲求を満たす事が出来るのです。

 また、相手にも名前で呼ばなくてはという返報性の法則が働き、その結果、信頼関係を構築しやすくなります。

 

 このような名前を呼ぶというテクニックを最も上手く使っているのが『ONEPIECE』のルフィです。

 実は、ルフィは自分が認めた相手しか名前で呼びません。そして、大切な場面では必ず相手の名前を呼びます。

 ワノ国編でも、最後に「ヤマト」と名前を呼ぶだけで、ヤマトはルフィに魅了されています。

 

 

 ー母ぁよぉ和尚から聞いた名前全部そっくりつけちまうー

 ーちょいと長すぎやしないかい?ー

 ーバカヤロ、1つ選んでぽっくり死んでみろ。あぁあっちの名前をつけておけばよかったって思うだろ?ー

 

 「江戸時代、7歳までは神のうちなんて言葉がある程、子供の死亡率が高かった。だから当時は親が子の長寿を願って名前をつける事は珍しくなかった。」

 「寿限無のキモは、言い立てじゃない。寿限無は、親が子につけた長過ぎる名前を繰り返す事で笑わせる噺。」

 「そんな長い名前をつけてしまう。子を想うが故に溢れた親心。」

 

 『あかね噺』寿限無の一幕と、寿限無の解説です。