‥平良は普通ではなく、見つめることに以上に固執する。高校時代から平良の視線だけでが特別だった。妙な圧迫感があり、振り返るといつもそこに平良がいた。長めの前髪からちらちら覗く黒い瞳は輝きがなく、ブラックホールみたいに清居を取り込もうとする。なのにどれだけ清居を映しても平良の目は満足しない‥
ーもっと見たい。もっともっと見たいー
ー裏返して見せて。かき分けて見せて。隅々まで見せてー
‥払っても払っても自分だけにまとわりついてくる熱。どれだけ見せても満足せず、もっともっとと求めてくる。ある意味、誰より貪欲な目が死ぬほど気持ちよかった‥
‥子供のころからずっと、自分はこういうふうに見られたかった。おまえだけが特別だと、がんじがらめに愛されたかった。奇跡的な合致。なのに、平良は最後の最後で的を大きく外す‥
「‥清居、ごめん。怒ってる理由を教えてくれたら直すよ。」
「言いたくない。」
平良は絶望的な顔をし、けれどすぐうなずいた。
「そうだね。うん、清居は普通じゃないし、俺みたいな凡人が聞いても理解できないと思う。ダイヤモンドや薔薇の気持ちを、道端の石ころが聞くようなものだし。」
ー死ねよー
苛立ちが頂点に達した。俺みたいな凡人とは誰のことだ。おまえはキング・オブ・ネガティブオレ様だろう。
『美しい彼』清居の脳内言葉と平良と清居の会話、そして清居の脳内言葉です。
私達は左脳が論理や思考を司り、右脳が感情的な部分を司っていると教えられてきました。
しかし、最新の科学ではそのように単純に分けられるものではなく、左脳と右脳は時に連携し合い、時に反発し合いながら、様々な思考や感情を私達に提供しているという説が提唱されています。
また、大脳は大脳新皮質・大脳辺縁系・脳幹の3つの部分に別れ、大脳新皮質が知性を司り、大脳辺縁系が感情を司り、脳幹が生命維持を司っています。
上記の事実を考えると、論理や思考を司るとされた左脳にも当然感情を司る大脳辺縁系が存在する為、左脳も感情を司る側面がある事を理解出来ます。
仮に、感情を司る細胞群が私達の脳内に1つしかないとしたら、私達が入り混じった感情を経験する事の説明がつきません。
私は、大人になってからも幼少期の経験を引きずり、行動しない事の言い訳をする人の気持ちが理解出来ませんでした。
「そりゃ大変だったんだろうけど、それ今の仕事に関係ある?」という気持ちが正直な感想です。
現在もこの気持ちに変わりはありませんが、様々な小説・ドラマ・アニメ等を観ていると、子どもの頃の葛藤や悲しさ・悔しさ等が、大人になってからも、その人の価値観や行動・習慣にまで影響をしている事が多々ある事に気付きました。
もしかしたら、無力で自分の力ではどうする事も出来ない子ども時代に抱えた葛藤や悲しさ・悔しさ等は知性を司る左脳がコントロールし、左脳の大脳新皮質の下にある大脳辺縁系の奥深くに封印しているのかもしれません。
しかし、感情は眠らせれば眠らせる程、大きな悪魔となり、あなたの人生に襲い掛かります。
行動しない事の原因を子ども時代に求める人を、脳科学の視点から導き出した現在の私の解答です。