「自分の娘をつかまえて言うのもなんだが、ひたぎは重すぎる子だと思うよ。」
…うん…
「情けない話だが‥私は、ひたぎを支えきれなかった。だから、あんな楽しそうなひたぎは、久しぶりに見たよ。」
「‥いつもあんな調子ですよ。僕を凹ますためだけに、お父さんを連れ出したんじゃないかとさえ思います。」
「‥ひたぎのような心を閉ざした人間が、言いたいことを言える対象はー2種類だけだ。嫌われても構わない相手。もう一つは、嫌われる心配のない相手ーだ。」
「‥はぁ。」
「ひたぎの病気が治ったのも、君が一役、買ってくれたと聞いているが。」
「いえ‥それはたまたま僕だっただけで‥別に。ひたぎさんは、一人で助かっただけで‥僕はそこにたまたま立ち会っただけというか‥。」
「それで‥いいんだよ。必要な時、そこに居てくれたという事実は、ただそれだけのことで‥何にも増してありがたいものだ。僕はその役目を果たせかった父親だ。私は。ひたぎにとって、嫌われてもいい人間ーだからね。」
…本当は、踏み込むべき場所ではーないのだろう…
「僕は、そうは思いません。私はもう大丈夫だよーって、私のことはもう心配いらないからーって、僕には聞こえてたっていうか‥」
『化物語』戦場ヶ原ひたぎの父と阿良々木君の会話です。
プリストン大学の脳神経学者ウリ・ハッソンは、MRIのスキャンを調べた所、話し手と聞き手の脳の活動が同じである程、両者が意思の疎通をしている事を発見しました。
また、その後もカリフォルニア大学の研究者達が、仲の良い友達と動画を見た場合、2人の脳は似た反応を示す事が示されました。
しかも、被験者の2人が動画を見ている時の脳の活動が近似していればいる程、親しい友人同士だという事がわかりました。
私達の脳は、誰かが何かを言った瞬間に同調するだけではなく、同調する事で獲得した理解や繋がりが、その後に続く情報を、どのように処理するかにも影響を与えます。
これは、友人だけではなく、家族や仕事の仲間等にも該当します。
つまり、親しい友人や家族の話を聞けば聞く程、お互いの脳の活動が似てくる、つまり、お互いの考えは似ていくのです。
…僕にも、ようやくーわかってきた。なぜ一番最初のデートに、父親を連れてきたのか…
…一番最初に見せたかったーわけじゃないわ。見て欲しかったのよ。それとこれとじゃ、全然違うじゃない…
「たぶん‥一番ひたぎさんのことを大切に見てきたのはーお父さんだから。誰よりも一番最初にー元気になった姿を見て欲しかったんだと思います。すいません。なんか‥。」
「いや、ひたぎの病気が、君に出逢って治った理由が‥よく解った気がするよ。」
『化物語』阿良々木君の脳内言葉、戦場ヶ原ひたぎの回想、そして再び阿良々木君と戦場ヶ原父の会話です。