思ひでは、遠くへだたるほど美しい

 桜を見ていると太宰治の『お伽草紙』に書かれている一文を思い出します。
 「思ひでは、遠くへだたるほど美しい。」という一文です。
 浦島太郎が玉手箱を開けたら、おじいさんになったという話は誰もが知るところです。
 これを太宰は、遠い美しい思い出にしてくれた瞬間、浦島の中で竜宮城の記憶が最高のものになったと表現しています。
 桜も似たところがあります。365日の中で花が咲くのは2週間程です。
 残りの350日程は、桜は遠い記憶の中のものとなります。
 遠い記憶の美しいものと待ち続ける人の気持ちが、桜をよりきれいなものとして脳に記憶させているような気がします。