「仕事は何かなんて質問を恥ずかしげもなくできるのは、子供だけだ。」
「なんでよ。仕事を用意してもらわなきゃ困るでしょ。」
「大人になるってことは、どういうことかわかるか?」
「‥‥。」
「子供は大人から与えられないと生きていけない存在だ。食べ物も服も家も与えられ、守られている。大人になるっていうのは、与える側になること。そして、仕事というのは社会に何かを与える行為。仕事を考え出して初めて大人になれる。」
「人から与えてもらったものは、仕事とは言わない。作業と言うんだ。作業だけしたかったら、違う部署を願い出ろ。」
『エンゼルバンク』桜木と井野の会話です。
昨日セブン&アイ・ホールディングが、傘下の百貨店事業そごう・西武を売却する方向で最終調整に入った旨のニュースが流れました。
不振が続く百貨店事業を切り離し、海外を中心に成長が見込まれるコンビニ事業に経営資源を集中する目論見でしょう。
コロナウイルス以降、百貨店の不振は続いています。
否、コロナウイルス以前にも、百貨店の価値は、下がり続けていました。
わざわざ、百貨店に行かずとも、同じ商品がネットで安く購入出来る上に、自宅まで届けて貰えるというのが現代の買物の仕方です。
行動経済学者のダニエル・カーネマンが、大学生を売り手グループと買い手グループという2つのグループに分け、売り手グループがマグカップをいくらで売るか、また買い手グループがマグカップをいくらで買うかを調べた実験があります。
このマグカップは、通常6ドルで販売されているものです。
実験の結果、買い手グループが答えた平均価格は2,87ドルだったのに対し、売り手グループが答えた平均価格は7,12ドルでした。
売り手は、買い手の2倍以上の価値をつけていました。
売り手と買い手の違いは、既に自分が所有しているか否か、手放したくないという感情があるか否かの2つであり、この2つの感情があるか否かにより、売り手と買い手に価格の相違が生じる事が理解出来ます。
私にとって池袋は庭です。
そして、池袋に行くと必ず足を運ぶのが西武池袋本店です。
行きつけの本屋が次々と閉店してしまった為、本は西武の三省堂で購入しますし、地元に帰る時等のお土産も西武で購入します。
さらに、東京に来てからは、靴下と靴も必ず西武で購入しています。
西武池袋本店は、地下がお惣菜やお菓子等が売っており、人が混雑しています。
これが1階、2階、3階と上層階に上がるごとに、人が減少していきます。
メンズ靴下や靴が販売されている5階には、ほとんど人がおらず、優雅に商品を選択する事が出来ます。
私は、池袋において優雅な時間を演出出来るのは、西武池袋であると感じています。
商品を購入するだけではなく、優雅な時間をお客様に提供する事が、百貨店がお客様に与えられるものではないでしょうか。
これにより、カーネマンの実験による売り手と買い手の価格の相違を埋める事が出来ると思います。
感謝される事に喜びを見出す事は危険です。
私は与えてばかりなのに、周囲は何もしてくれないとストレスを抱える事になってしまいます。
感謝される事に喜びを見出すのではなく、与える事そのものに喜びを見出していきましょう。
人に何かを与える事程、あなたに幸せにする事はありません。
自分の幸せの為に、今日も誰かに何かを与えましょう。
振り返れば、祖父への最後のプレゼントも西武池袋本店で購入しました。
私の大学時代のバイブル『エンゼルバンク』『ドラゴン桜』等の作者の三田さんも西武で働いた経験を糧に、漫画家になりました。
私にとっての西武池袋本店は、ショートケーキの苺のような存在です。