我を守りし者、その名を示せ

 

 「君、寿限無の元々の落ち(サゲ)知ってる?」

 「さっきのじゃないんですか?」

 「違う。元々の落ち(サゲ)は、寿限無が死ぬんだ。成長した寿限無は、友達と二人で川に落ち溺れる。友達はすぐに助けを呼べたが、寿限無は名前が長過ぎるせいで、助けを呼ぶのに時間がかかって帰らぬ人に。」

 

 「子の幸せを願いつけた名前の所為で、子が死ぬ。寿限無は、元々過ぎたるは及ばざるが如しの皮肉が込められた噺だよ。」

 「初めて知りました。」

 「不勉強だね。君は噺に興味がないの?深く知りたいと思わないの?」

 「それは」

 「さっき君の落語を聞いてて思ったけどさ、君の言い立ては音だね。言葉に成っていない。助言はここまで。あとは自分で考えてよく悩み、考えなよ。学は及ばざるが如くせよだ。」

 『あかね噺』こぐまとあかねの会話です。

 

 

 10万種類以上あるといわれている日本人の名字、その殆どが日本各地の地名、または地形に由来します。

 自分の先祖が、どのような場所に暮らしていたのか、名字から探る事が出来ます。

 

 私の名字である「藤田」ですが、藤という漢字から藤の花に由来すると思われがちですが、昔の言葉では藤はツル植物全般を指している為、藤の花と「藤田」には残念ながら関連がありません。

 「藤井」であれば、ツル植物の生えている井戸の近くにあった家の事を指しますが「藤田」で考えると田んぼにツル植物が生えているはずもありません。

 実は「藤田」の旧名仮名遣いは「ふぢた」「ふちた」であり、たくさんある田んぼの端を意味します。

 つまり、たくさんある田んぼのふちを所領していたのが「藤田」という名字の由来です。

 

 

 名字が農民にまで拡がった室町時代。

 親戚縁者は、皆、近所に寄り集まって、生活をしていました。

 名字の由来の8割は地名からきていますが、その地名とは都道府県や市町村といった大きなものではなく、その地域にある山や川、田んぼ等の狭い地域の地名が使われています。

 

 私達が、人生において最もよく使う言葉は、自分の名前です。

 私達が、最も心地よい音と脳が感じる言葉も、自分の名前です。

 自分の名字の由来を調べるも良し、自分の名前の由来を親に尋ねるも良し。

 

 自らの名の由来・意味、そして、その名に込められた親の願い。

 それを知る事で、自分の名を名乗る時、その名が、音から言葉に変わります。