「又八‥この世に強い人なんておらん。強くあろうとする人、おるのはそれだけじゃ。」
「弱い者は、己を弱いとは言わん。お主は、もう弱い者じゃない。強くあろうとする者。もう一歩目を踏み出したよ。ほうら言うたじゃろ。お主の未来は、広がってゆく。八の字の如くに。負けるな又八。負けるな。」
「ただ真っすぐに、一本の道を進むのは美しい。じゃが普通は、そうはいかぬもの。迷い、間違い、回り道もする。それでええ。振り返ってごらん。あっちにぶつかり、こっちにぶつかり、迷いに迷ったそなたの道は、きっと誰よりも広がっとる。道が広がった分、お主は誰よりも人に優しくできる。わしも、武蔵も、なれなかった人間になれる。」
『バガボンド』お杉の言葉です。
セリエA、ラツィオVSボローニャの選手入場するシーン、ラツィオの最後の選手であったペドロは、ボローニャの監督であるモッタと、笑顔でハグしました。
このようなシーンがあるからこそ、フットボールを観る事は、辞められません。
まさに、ペドロのフットボール人生こそ、八の字の如く又八です。
歴史上NO1の選手と同じ年に生まれ同じチームに所属し、歴代最強チームでポジションを確保するものの翌年ブラジルのスター入団とともに出場機会が減少。
自らの存在意義を証明する為に、チェルシー・ローマ・ラツィオと渡り歩くものの、どのチームでも試合に出る度に、チームに大きく貢献しているにも関わらず、その貢献に見合った評価がされない。獲得したタイトル数25、チャンピオンズ・ワールドカップ等、主要国際大会全てのタイトルを獲得した唯一の男である事からも、ペドロの貢献が証明されているにも関わらず‥。
そんな男が魅せる笑顔にこそ、私は勇気を貰います。
物理において、速さと速度は、異なった意味を持ちます。
速さとは、大きさのみを現します。
速度とは、大きさに加え、運動の向きを加えます。
つまり、10㎞で走るとだけ表現するのが速さであり、東向きに10㎞で走ると表現するのが速度です。
フットボールにおいて、ただ速いだけの選手は、たくさんいます。
しかし、ただ速いだけの選手は、その速さのみで相手を凌駕出来る為、速さの向きを意識していない事が多いです。
私が、ペドロを観ていて素晴らしいと感じる所は、走る向き、つまり、速度です。
ただ走るだけではチームの攻撃が、平面的になり、単調なものとなってしまいます。
しかし、走る向き、速度を考えて走る選手がいると、その攻撃に深さが生まれ、攻撃は立体的となり、様々な形が生まれます。
これにより、自分以外の仲間が攻撃を組み立てやすくなるのです。
目立ちませんが、ペドロのいるチームがタイトルを獲ってきた要因が、ここにあると私は感じています。
これは、人生にも、当てはまります。
勉強においても、仕事においても、人生においても、ただ速い事だけを求める必要はありません。
大切なのは、速さではなく、速度です。
曲がってみたって、途中で立ち止まってみても、向きを変えてみても、いいのです。
ある日、振り返ってみたら、道が広がった分、あなたは、誰よりも人に優しく出来ます。