「有名税って何?お客様は、神様みたいなこと言ってさ。それは、お前らの使うセリフじゃねーんだよ。傷つけられる側が納得させる為に使う言葉を、人を傷つける免罪符に使うな。」
『推しの子』ルビーの言葉です。
1973年2月21日イスラエル空軍のレーダーは、スエズ湾上空からイスラエル占領下のシナイ半島上空に近づく民間旅客機を捉えます。
当時、イスラエルとエジプトの間で第三次中東戦争が勃発し、2万人以上の死者を出していました。
旅客機はイスラエルの敵国エジプト軍の戦闘機がとる侵入経路と同じでした。
イスラエル軍は、エジプト軍の侵入を疑いながらも、旅客機が予定経路から外れているだけの可能性も頭に入れていました。
そこで、イスラエル軍は確認の為、戦闘機を配備します。
戦闘機が旅客機を発見すると、リビアン・アラブ航空114便である事が判明しました。
しかし、114便の目的地はカイロであり、その航路からは160㎞以上も外れています。
また、114便が通って来た航路ではエジプト軍領空の過激なエリアを飛んできているはずであり、通常当時のエジプト軍は領空内に入ってきた飛行機を躊躇なく撃ち落としていたにも関わらず、114便には傷1つありませんでした。
そこで、イスラエル軍の戦闘機は、翼を振って合図を送り、無線で着陸の指示を出しました。これは、国際的な習慣です。
それにも関わらず、114便はイスラエル上空に向かい続けています。
エジプト軍の侵入を疑いながらも、まだイスラエル軍は旅客機である可能性を残し、114便の窓から乗客の姿を確認する事にしました。
しかし、窓は全てブラインドが掛かっており、乗客の姿を確認する事が出来ませんでした。
イスラエル軍の戦闘機は、114便の先端を銃撃します。
それでも、114便は、イスラエル軍の指示に従おうとしません。
その後、戦闘機は翼の根本部分を攻撃し、損傷を負った機体は砂漠を600m滑った後、砂丘に突っ込み爆発し、炎上してしまいました。
後に判明した事実によれば、114便は一般の旅客機で、エジプトのカイロへ向かう途中、誤って航路を外れ、イスラエル領空に迷い込んでいただけでした。
乗客は113人。そのうち108名が機体の炎上に巻き込まれ、亡くなっていました。
この事件の翌日、世界中で激しい抗議が沸き起こりました。
「民間機を撃ち落とすなんて、イスラエルはどういうつもりだ」「あんなにたくさんの民間人を殺すなんて何を考えている」等と非難の嵐はやみません。
しかし、イスラエル軍にしてみれば、責任は旅客機の操縦士にあります。
非難をする人達は、その事を知らずに、非難を続けています。
非難は、失敗や好ましくない出来事に対する人間の一般的な反応です。
何か失敗や間違いが起こると、人はその経緯よりも「誰の責任か」を追及する事に気を取られる傾向があります。
私達は、たとえどれだけ複雑な出来事でも、新聞や雑誌の見出しのように、その出来事を単純化してしまいます。
非難は、人間の脳に潜む先入観により、物事を過度に単純化してしまう行為です。
非難は、私達の学習能力を妨げるばかりではなく、時には深刻な結果をもたらす事もあります。
何かミスが起こった時に「担当者の不注意だ」「怠慢だ」と真っ先に非難が始まる環境では、誰でも失敗を隠したくなります。
しかし、もし「失敗は学習のチャンス」と捉える組織文化が根付いていれば、非難よりもまず、何が起こったのかを詳しく調査しようという意思が働きます。
適切な調査を行えば、2つのチャンスがもたらされます。
①学習のチャンス
②オープンな組織文化を構築するチャンス
ミスを犯しても、不当に非難される事がなければ、当事者は自分のミスや、それに関わる重要な情報を進んで報告するようになります。
進化していく、否、これからの時代を生き抜いていく組織には、失敗を非難するのではなく、学習やオープンな組織文化を構築するチャンスと捉え、行動する事が求められます。