心理学者ファンツは、新生児の視覚刺激に対する反応を調べる実験を行いました。
実験内容は、生後5日以内の新生児と生後2~6カ月以内の乳児に、人の顔・活字・同心円・赤色の円・白色の円・黄色の円6種類の円盤型の図版をランダムに見せ、それぞれの図版の注視時間を調べるというものです。
結果は、新生児・乳児とも注視時間が最も長かったのは、人の顔でした。
この実験により、生まれたばかりの新生児にも、人の顔を好むという視覚的な偏向がある事が証明されました。
また、新生児の音に対する反応をみる別の実験では、母親の声にはっきりと反応を示すという結果も出ています。
新生児は、母親の声を他の人とは異なる声として認識しているのです。
これらの実験から、新生児は選択的にものを見る能力、音を聞き分ける能力をすでに備えている事が理解出来ます。
乳児は、早い時期から高さや深さ、奥行き等、三次元的な広がりを理解していると言われています。
それを証明したのが、心理学者のギブソンとウォークの実験です。
彼らは、視覚的断崖と呼ばれるガラス張りの装置を用いた実験を行いました。
装置の上に生後6か月の乳児を座らせ、母親が反対側から声を掛けて呼びます。
すると、乳児は浅い所は這って渡るのに対し、ガラス越しに床が見えるような下が深く見える所では這って渡ろうとはしませんでした。
この実験から、乳児が深さを認識していた為に恐怖を感じて渡らなかった、つまり、乳児が高さや深さ、奥行き等の三次元的な広がりを理解している事が証明されました。
人類学者ポルトマンは、ヒトの出生状態は生理的早産であると主張しました。
人間の赤ちゃんは、他の動物と比較し、未熟で無力な状態で生まれてきます。
たとえば、チンパンジーの出生直後と比較すると、ヒトがチンパンジーと同じようなレベルに達するには、約1年掛かります。
このような理由により、ポルトマンはヒトの出生状態を生理的早産と呼び、この説が長い間信じられ、新生児は無力であるとする考えが世界中に拡がっていました。
しかし、上記の実験から理解出来るように、新生児は様々な能力を備えています。
もちろん、無力な面もありますが、新生児には能力があると考える事が現代の子育てではないでしょうか。