王騎ら六将は、死ぬ程憎らしい最大の敵でありながら、どこかで苦しみと喜びを分かちあっている友であった。だから、六将筆頭の白起が自害した時は涙を流し、蟉がどこぞの馬の骨に討たれた時は怒りに震えた

 

 「王騎ら六将は、死ぬ程憎らしい最大の敵でありながら、どこかで苦しみと喜びを分かち合っている友であった。だから、六将筆頭の白起が自害した時は涙を流し、蟉がどこぞの馬の骨に討たれた時は怒りに震えた。」

 『キングダム』廉頗の言葉です。

 

 

 今年のメルカート(移籍市場)は、例年とは異なります。

 その理由は、サウジアラビアです。

 

 例年7月~8月のメルカートは、喜びと悲しみの両方の気持ちが表裏一体となる時期でもあります。

 好きな選手が好きなチームに加わりどのような化学変化が起こるのか、好きな選手が好きなチームから離れどのように再起を図るのか等、サッカー選手である1人の男の人生と、会社であるチーム組織との駆け引きが、メルカートの醍醐味です。

 しかし、今年は、好きな選手、否共に生きてきた選手達が、次々とサウジアラビアに移籍をしています。

 

 フットボールの主役の舞台は、ヨーロッパです。

 それは現在も変わりありませんが、そのような中でも過去において、著名な選手がヨーロッパ以外のリーグに移籍する事はありました。

 1970年代にはアメリカ、2010年代は中国、そして、1990年代は日本にも著名な選手達が移籍してきました。

 

 しかし、これはあくまで超一流のピークを過ぎたスター選手達の移籍です。

 日本に来たジーコ・リトバルスキー・リネカー等は、世界的な選手であったものの、超一流のピークを過ぎた選手達でした。

 ただ、今回のサウジアラビア移籍は、異なります。

 

 

 ロナウド、ベンゼマ、カンテ、クリバリ、フィルミーノ等は、世界最高の頃を知っている私からすれば、超一流のピークを過ぎた選手である為「お疲れ様」という思いも込めて、納得してサウジアラビアに送り出す事が出来ます。

 しかし、ネイマール、ミリンコビッチサビッチ、フォファナ、マフレズ、マネ、ケシエ、サンマキシマン等は、まだこれから世界最高への挑戦が出来る選手であったり、チームと合わなかっただけでありここから1人の男として再起を図る姿を観たかったという思いがある為、どこか納得出来ずにいる自分がいます。

 

 

 勿論、サウジアラビアというリーグを、ヨーロッパに負けないリーグにしていくという夢や、金銭面での魅力はあるでしょう。

 選手も、1人の人間です。

 自身の将来だけではなく、家族や親戚、自分の会社や組織、自分の故郷等、守るべきものがあります。

 そして、それらを守る事が出来る武器がお金である事は、私達と何ら変わりはありません。

 それでも、フットボールに助けられ、フットボールに夢を観て、フットボールに現実を突きつけられた私としては、どこか納得出来ない気持ちがあります。

 

 世の中に、いつまでも続く物語はありません。

 共に同じ時代を生きてきた選手と別れがくる事は、覚悟していました。

 しかし、こんなにも突然、多くの選手達との別れが重なるとは思っていませんでした。

 

 

 「我々は次の行き先が見つかりました。あとはあなたです。」

 「何言ってんだ。俺は最初から決まってんだろうが。」

 「いえ、そういうことではなくて、我々は少し気持ちが前向きになったってことです。」

 「何だそりゃ。俺は全然…。」

 「下向いちゃってますよ。気づいてないんですか?なぜか、あなたが誰よりも桓騎の死を一番悔しがっているんですよ。信。」

 『キングダム』磨論と信の会話です。

 

 若しかしたら、私の気持ちは何とも言えない悔しさなのかもしれません。