「もう何も見えんのか、お前には。どんな壁も乗り越えられると思うておった自信。疑うこともなかった己の強さ。それらを無情に打ち砕く手も足も出ぬ敵の数々。この海での道標じゃった兄。無くした物は、多かろう。世界という巨大な壁を前に、次々と目の前を覆われている。それでは一向に前は見えん。後悔と自責の闇に飲み込まれておる。」
「今は辛かろうがルフィ…それらを押し殺せ。失った物ばかり数えるな。無いものは、無い。確認せい。お前にまだ残っておるものは何じゃ。」
『ONEPIECE』ジンベエの言葉です。
…生まれ落ちるや、誰も大声挙げて泣叫ぶ。阿呆ばかりの大きな舞台に突出されたのが悲しうてな…
シェイクスピア著『リア王』の一説です。
苦しみばかりの人生に、俗物ばかりの世界に、無理矢理生み出されて、赤子は泣いています。
では、そんな世界から逃げ出す方法はあるのでしょうか?
逃げ出す事、沈みゆくタイタニック号の外を、想像する事は出来ます。
文学も、音楽も、映画も、アートとは、沈みゆくタイタニック号の外を想像する為にあります。
その中でも、私が最もお勧めするのが読書です。
勿論、漫画も読書です。
読書は、世界の外を、沈みゆくタイタニック号の外を想像する為にあります。
沈みゆくタイタニック号とは、オワコンの日本経済であるとか、ロシアウクライナ戦争であるとか、止まる事なき人による地球の破壊であるとか、そのような大きな事ではありません。
長年時間を共にしたパートナーに、別れを告げられた。
愛する人に、先立たれた。
家族の一員である猫や犬が、死んだ。
世界から見れば、小さな事でも、本人にとっては、生死に関わる問題なのです。
今日食べる事のない苦境の中にいるアフリカの人達も、経済的裕福な時代を生きてきた現在の高齢者の小さな別れも、そこに軽いも重いもありません。
生きる地獄という意味では、等価なのです。
それでも、食べ物がない中では、本に手が伸びませんが、私達日本人は本に手を伸ばす事が出来ます。
世界は、沈みゆくタイタニック号の中だけではありません。
沈みゆくタイタニック号の外を見る方法は、世界に溢れています。