「どうした黒尾、大人しいじゃんよ。」
「目立てば良いってモンじゃねぇの。今にしょぼくれさせてやるから待っとけ。」
「黒尾さん、3対3の時はもっと木兎さん止めてた気がすんのに…」
「でも、黒尾さんのブロックのお陰で、後ろはレシーブし易くなってるように見えるよ。」
『ハイキュー』木兎と黒尾、リエーフと芝山の会話です。
FW(フォワード)の選手を観る時、どこを観るでしょうか?
ゴールを決める所、パスを引き出す動き、仲間を活かす落としでしょうか?
それらは勿論ですが、私は、相手へのプレスの掛け方を観ます。
プレスの掛け方を観るだけで、その選手がどれだけフットボールを知っているかを理解する事が出来ます。
過去5年間において、私が最も好きなプレスの掛け方をしているのがメルテンスです。
「最も好きな3トップは?」と質問をされたら、私は、サッリナポリ時代のカジェホン・メルテンス・インシーニェと答えます。
そのメルテンスがいるベルギー代表が、予選敗退をしました。
1戦目・2戦目の試合内容を観れば、当然の結果とも言えますが、それでも世界は赤い悪魔の予選敗退に衝撃を覚えています。
ベルギー代表が、前回ワールドカップで3位になれたのは、哲学的なフットボールをしたわけではなく、アザールという当時世界最高の選手にボールを渡せば、1人で何とかしてくれたからです。言ってしまえば、アザールという飛び道具の怖さにより、ベルギー代表は結果を残してきました。
しかし、マドリーに移籍してからのアザールが、チェルシー時代のアザールではない事は、フットボールファンであれば、承知の事実です。
その綻びは、EURO2020、ネーションズリーグにおいて、表出していたにも関わらず、ベルギー代表は戦術も、選手も変える事がありませんでした。
私は、5・6年前にベルギー代表のトップをルカクではなく、メルテンスにするべきであるというブログを書きました。
ルカクは、サイズ・パワー・得点力等、どれを取っても、怪物です。
エヴァートン時代から知っている選手である為、世界的なストライカーにまで成長した事には、嬉しさもあります。
しかし、ルカクがトップにいると、チームの戦術はルカクになってしまいます。
チームの戦術を1人の選手にしてしまっては、実力が劣るチームにも、勝利する事が出来ないのが現代フットボールです。
まして、ルカクが出られない時には、ミニルカクのようなバチュアイをトップに置き、同じような仕事を任せていては、たまたま得点を奪う事が出来たとしても、その得点を再現する事は出来ません。
アザールの衰退がみられ始めた時から、ベルギー代表は個人に頼るスタイルを辞め、ルカクではなく、メルテンスをトップに置き、11人として化学反応を起こしていくチームに変えるべきというのが私の主張でした。
それをしないで、アザール・ルカク・デブライネという幻影を追いかけ続け、それが幻影である事が追に証明されてしまいました。
事実、予選3試合目のクロアチア戦、メルテンスが出場していた前半は、ベルギー代表が初めて機能的に連携し、化学反応が生じていました。
メルテンスの効果的なプレスにより後ろの選手は選択肢を絞る事が出来、守りやすくなります。メルテンスが動く事で相手の守備に綻びが生じ、それに合わせ味方選手がフリーとなります。
ヨーロッパのフットボールでは当たり前の光景が、ようやくベルギー代表にも観られるようになりました。
しかし、それでも、メルテンスを交代させ、アザール・ルカク・デブライネと心中を図ったベルギー代表に、私は悲しい気持ちとなりました。
フットボールから組織が機能する為に必要な事を、学ぶ事が出来ます。
ワールドカップで繰り広げられている各局面と結果は、私達の仕事において繰り返されている事と、若しかしたら同じ事なのかもしれません。