「主演級の仕事なんて、私にとっては十年ぶりの大仕事だから、そりゃ頑張るし。」
「確かに。最近見ないし、まだ役者続けてたのかって思ったし。」
「確かに。私にとっての闇の時代は大分長かったわ。ずっと仕事が貰えず、ネットで終わった人扱いされて。でも、稽古だけはずっと続けて。何のために努力してるのか分からなくて。何度も引退って言葉が頭をよぎって‥。だけど、こうやって実力が評価される時期が来たのよ。本当に今まで辛かったけど、続けてきて良かったって思った。」
「だからね、別にアンタがめちゃくちゃ凄い演技しなくたって、アンタがこの仕事続けてるって分かっただけで、私嬉しかった。こんな前も後ろも真っ黒な世界で、一緒にもがいてたやつが居たんだって分かって、それだけで十分。」
『推しの子』有馬カナとアクアと、有馬カナの言葉です。
「私を滅ぼすに至らない全ての事が、私を強くする。」
ニーチェの言葉です。
私達の身体や心を滅ぼさない程度の適度な苦痛は、私達の身体や心にプラスになるとともに、あなたの身体や心を若返らせてくれます。
わかりやすい例が運動です。
運動とは、身体と心に苦痛を与える行為です。プロのスポーツ選手以外であれば、好き好んで運動をする人は少数でしょう。
しかし、身体と心に適度な苦痛を与える運動が、身体や心にとってプラスに働く事は、誰もが知る所です。
1日15分運動をするだけで、心疾患になるリスクを45%、鬱病になるリスクを44%、認知症になるリスクを50%減少させる事が出来ます。
また、身体が健康な人程、実年齢よりも若く見られるというデータが複数出ています。
1826人の双子を10年間追跡調査した調査では、周囲から若く見られる人程、生存率が高い傾向にありました。
日本で実施された別の調査では、肌にシミやシワが少ない見た目の若い女性程、内臓脂肪が少なく、動脈硬化等になるリスクも低い事が証明されています。
1994年東アフリカの小国ルワンダで、人類史上例のない悲劇が起こりました。
同国で暮らすフツ族という多数派の部族が、少数派のツチ族を虐殺し始め、100日間で80万人以上の命が奪われました。
最終的にルワンダの人口は20万人も減り、戦犯を処罰する裁判は現在も続いています。
私自身、大学時代自転車で世界一周をしようという計画を立てていましたが、ルワンダ大虐殺を描いた『ホテルルワンダ』という映画を観て「これは死ぬな。」と感じ、自転車で世界一周する事を諦めたという思い出があります。
ルワンダ大虐殺で特筆すべきは、殺害方法の残酷さです。
個人的な恨み等は全くないにも関わらず、ツチ族というだけで、腕を切り落とし、足を切り落とした後に命を絶つという想像するだけで恐ろしい地獄のような光景が当たり前のように繰り広げられていました。
ルワンダ大虐殺を生き延びた人々のトラウマの深さは計り知れないはずであると、2013年ペンシルベニア大学が調査を行いました。
虐殺の生存者100人に「最悪の事件により、精神状態に何らかの変化が起こりましたか?」と尋ねたのです。
返答は意外なもので39%の人が「事件のおかげで新しいアイデアを思い付いつきやすくなった」「前向きな気持ちになった」等とポジティブな変化を報告しました。
研究チームは「トラウマのストレスが過去の古い思考を崩し、被害者の気持ちが新たな可能性に向き直ったからではないか」と推測しています。
悲惨な事件を経験する事で「世の中に確かなもの等ない」という気持ちが生まれ「ならば好きな事をするしかない」等というような前向きな思考に変化していったのだと思われます。
もちろん、このデータは虐殺を正当化するものではありません。
現在もPTSDに苦しんでいる人も一定数存在しています。
悲劇への反応は人そぞれであり一般化は困難です。しかし、ルワンダ虐殺のような地獄でも、成長の糧に使う事が出来た人がいた事も事実です。
仕事を引退した人が、一気に老け込むのは適度な苦痛がなくなるからかもしれません。
人が健康を保ったり、若さを保つには適度な苦痛が必要です。
そのように考えると、日々の仕事や子育て、家事等、面倒だと思えてしまうような事にも意味を見出す事が出来ます。