「今日は、絶対勝つんだ。ダビドとその彼女の為に。彼は、今苦しんでいる。ピッチ上では、彼の為に楽しめ。苦しむなら、彼の為に苦しめ。今日は、ダビドとその家族の為に勝つぞ。」
17-18シーズン、シティVSスパーズの試合前のロッカールームにおける、ペップの言葉です。
ダビド・シルバの引退が発表されました。
皆さんは、シルバのどのようなシーンを思い浮かべるでしょうか?
2012EURO開幕戦イタリア戦では、拮抗する試合をシルバの魔法が一瞬時間を止め、イタリア守備陣を打開した事もありました。
シティでは4度のリーグタイトル、スペイン代表ではEURO連覇・ワールドカップ優勝と、輝かしい成績とともに、それ以上の素晴らしい記憶を私達に残してくれました。
2017年12月シルバは、人生で最も苦しい時期を迎えていました。
息子を授かったシルバでしたが、出産予定日より5ヵ月も早い出産であった為、息子は早産児として約5カ月間入院する事になりました。
「とてもタフだったよ。あの子はずっと病院にいたんだ。それに彼は、スペインにいて、何度もイングランドから渡らなければならなかった。ほとんどトレーニングができなかったよ。あまり眠れなかったし、食べられなかった。だけど、幸いにもチームは本当にうまくやっていて、それがとても僕の助けになった。」
「以前にも言ったけど、プレーしている時間が唯一心配を忘れられる時間だった。そして、試合が終われが色々なことを考え始めるんだ。本当に良い逃げ道だった。フットボールは僕らが最も好きで、最も楽しめるものだ。」
苦しい時期にいたシルバの言葉です。
このシーズン、シティは最多勝利(32勝)最多勝ち点(100ポイント)最多得点(106点)記録を更新し、プレミアリーグを制覇します。
そして、その中心には、苦しい時期を戦い抜いた21番の姿がありました。
淡々と仕事をするシルバの姿は、私の仕事のイメージを作ってくれた1人でもありました。
シティにいても、代表にいても、ソシエダにいても、いつでも、誰とでも、どこでも、自分の仕事を淡々とするシルバの姿は、何度も私を救ってくれました。
しかし、シルバも最初から、淡々と仕事をする男であったわけではありません。
子ども時代はマドリーに選ばれず、バレンシア時代はボールを持ちすぎる傾向があり、2010ワールドカップでは初戦の敗退の戦犯扱いされその後スタメンから外されます。
一瞬の魔法を作り出す事は出来ても、それを90分通じて発揮する事が出来ないという印象が、若きシルバにはありました。
前述したイタリア戦においても、シルバの魔法により得点する事が出来たにも関わらず、その直後に交代させられています。
誰もが、出来るだけ正しい決断をしたいと願っています。
しかし、いきなり正しい決断を下す事は、とても困難です。
間違った決断を下すという経験を積んだ上で、ようやく正しい決断を下すレベルになる事が出来ます。
失敗という経験を積んだ上でなければ、成功に至る事は出来ないのです。
失敗を恐れない事です。
失敗は、自己を改善していく為には、避けられないステップです。
フットボールで例えても、積極的なプレーをする人が失敗する人であり、積極的なプレーをしない人は失敗しない人です。
どちらがより上達するのかは、明白です。
おそらく、シルバは幼い頃から、その魔法を褒められ、自身もその魔法の虜だったのでしょう。
しかし、プロになり、より高みを目指す中、またフットボールが急激に進化をしいく中で、一瞬の魔法だけでは通じないという壁にぶち当たりました。
そこで、魔法を一瞬100出すのではなく、90分間60の魔法を出し続けるというプレースタイルに変えていきました。
これが、10年間シティにおいて、最強スペイン代表において、シルバが輝き続け、そして、ファンから愛され続けた理由だと思います。
シルバが、10年間かけ続けた魔法は、現在のシティにも、通じています。
10年間シルバがかけ続けた魔法が、ペップにより整えられ、ベルナルド・シルバによりさらなる魔法へと変化していき、シティは記録と記憶の両方を体現出来る世界一のチームへとなる事が出来ました。
「指で示した21。それは、ダビドへのメッセージ。」
17-18シーズン、シティVSスパーズ戦、得点を決めたデブライネは、両手で21を示し、シルバにメッセージを送りました。