誰もが誰かを想い、悪気なく身勝手で、なにかが決定的にすれちがってしまう

 

 …言葉を詰まらせ、目を血走らせ、ぼくに拳を振るう父親を見て、この人も心底娘を愛しているのだとわかった。安堵する一方、愛情とはなんて不完全なものだろうという理不尽さが湧き上がる。娘を守るために娘から人生の選択権を奪おうとする父親、敦くんを守ったその手で子供の父親という権利を剥奪した明日見さん、娘を案じながらも夫との板挟みに右往左往するしかない母親、土壇場で明日見さんよりも人目を気にした敦くん…

 

 …そして他を優先して一番親しい他である息子を後回しにし続けたぼくの両親と、親への愛情という言い訳で、思いのまま歩めない人生の責任を親に転嫁したぼく…

 『星を編む』の一説です。

 

 

 子どもの頃、心に受けた傷を乗り越える事が、過去の繰り返しから覚醒する最も効果的な方法です。

 乗り越えると聞くと、大変な事のように感じますが、そのままでは大きすぎて飲み込む事が出来ないものを、細かく噛み砕いていく過程と思っていただきたいです。

 しっかりと噛み砕いて、自分の歴史の一部として消化出来るようにしましょう。

 

 研究では、その人の身に何が起こったかよりも、その起こった出来事をどのように処理するかの方が大切であると結論が出ています。

 安定した愛着を持った子どもを育てる親の特徴を調べた所、自発的に自分の子ども時代の思い出を語る事が多いという共通点が見つけられました。

 中には、子どもの頃に辛い経験をしてきたものの、自身の子どもとの関係は安定しているという人もいました。

 

 そういう親は、じっくりと時間を掛けて自分の経験について考え、自分の中できちんと消化してきたので、子ども時代の楽しい思い出も辛い思い出も、ありのままに受け止めていました。

 そのような親の子どもが、安定した愛着を示す事は想像に難くありません。

 現実から逃げずに、自分の過去にしっかり向き合う事が出来た。

 

 彼ら彼女らは、自分の過去に向き合う事が出来たからこそ、子どもとしっかりと繋がり、安定した愛着を形成する事が出来たのです。