…すぐに飲み込む。それが兄さんの強さだ…
…父の仕えた藩主が改易となった時も、貧乏暮らしで母が病死した時も、父が主君の仇討ちに参加し処刑された時も、野党に襲われた時も、すぐに状況を飲み込み、最終的にはその場を支配するに至る…
…この世の理は、弱肉強食ではない。適者生存ー適応する者こそ強いのだ…
『地獄楽』桐馬の脳内言葉です。
白黒模様の大きな身体で、座って竹を食べる愛くるしい姿をしたジャイアントパンダ(以下パンダ)は、独特の姿をしたクマの仲間です。
パンダは、約2,000万年前、クマとの共通祖先から分岐して、竹を主食にした事で特殊な進化を歩んだ動物です。
同じパンダと名前がつくレッサーパンダは、それより前の共通祖先から分岐しており、分類学上、クマの仲間ではありません。
では、何故パンダは竹を主食にしたのでしょうか?
現在考えられている仮説は、以下の通りです。
パンダの祖先がいた生息地に竹が無尽蔵に生えていた為、他のクマのように動き回る獲物を追いかけるのではなく、確実に食べる事が出来る竹を主食にする事を選択した。
しかし、竹を主食とするにあたり、クマの身体のままでは困った問題がありました。
その問題とは、手先が不器用で、竹を上手に掴む事が出来ない事です。
クマの5本の指には、鋭い鉤爪がついています。
肉食のクマは、獲物を仕留める為に、鉤爪のついた手の平を深く折り曲げられれば十分で、複雑な動きは必要としません。
実際、クマの5本の指は、単純な曲げ伸ばししか出来ません。
では、パンダは、どのように器用に竹を掴めるようになったのでしょうか?
この答えとなるのが、1930年代に注目された「パンダの第6の指」と呼ばれる骨です。
この骨は「撓側種子骨」という骨です。
撓側種子骨は、親指に、腕の筋肉からの力を伝える小さな骨です。
パンダは、この骨を大きくする事で、器用に竹を掴めるように進化していきました。
パンダと聞いて、座って竹を食べるポーズを思い浮かべる人は、多いのではないでしょうか?
実際、パンダは、1日の半分以上の時間、竹を食べています。
パンダが、こんなに食いしん坊なのは、消化管が、植物食用になっていない為です。
パンダの消化管は、肉食動物であるクマのままなのです。
肉食動物と植物食動物では、消化管の長さや構造に、大きな違いがあります。
植物食動物は、植物に含まれる「セルロース」を分解しなければなりません。
しかし、動物の体内には「セルロース」を分解する酵素がありません。
その為、胃や腸の中に「セルロース」を分解出来る細菌を飼っています。
この細菌の「培養タンク」を確保する為、植物食動物の胃・腸等は大きく膨らんでいるとともに、腸の長さも非常に長くなっています。
国立科学博物館に牛の腸が展示されているので、足を運ばれた時には、是非観てみて下さい。
牛の腸の長さは50mあるのに対し、パンダの腸の長さは8m程であり、ヒトとも大差ありません。
上記の様に、肉食のクマの時代のままの腸を持つパンダの消化効率は、非常に悪いです。
その為、食べた竹の多くは、未消化のまま、フンとして排出されてしまいます。
植物食に適さない消化管を持つパンダは、栄養を補う為に、多くの竹を食べる必要があります。
パンダは、1日10~20㎏、体重の1割程度の竹を食べるのです。
パンダは、竹を食べて生きていくのに適する進化を遂げた部分がある一方で、クマと変わらない部分も残されています。
愛くるしい姿と仕草で、動物園の人気者となっているパンダ。
その身体には、まだ知られていない進化の痕跡が残っているかもしれません。