この世の理は、弱肉強食ではない。適者生存ー適応する者こそ強いのだ3

 

 …すぐに飲み込む。それが兄さんの強さだ…

 …父の仕えた藩主が改易となった時も、貧乏暮らしで母が病死した時も、父が主君の仇討ちに参加し処刑された時も、野党に襲われた時も、すぐに状況を飲み込み、最終的にはその場を支配するに至る…

 

 …この世の理は、弱肉強食ではない。適者生存ー適応する者こそ強いのだ…

 『地獄楽』桐馬の脳内言葉です。

 

 

 

 白黒模様の大きな身体で、座って竹を食べる愛くるしい姿をしたジャイアントパンダ(以下パンダ)は、独特の姿をしたクマの仲間です。

 パンダは、約2,000万年前、クマとの共通祖先から分岐して、竹を主食にした事で特殊な進化を歩んだ動物です。

 同じパンダと名前がつくレッサーパンダは、それより前の共通祖先から分岐しており、分類学上、クマの仲間ではありません。

 

 では、何故パンダは竹を主食にしたのでしょうか?

 現在考えられている仮説は、以下の通りです。

 パンダの祖先がいた生息地に竹が無尽蔵に生えていた為、他のクマのように動き回る獲物を追いかけるのではなく、確実に食べる事が出来る竹を主食にする事を選択した。

 

 

 しかし、竹を主食とするにあたり、クマの身体のままでは困った問題がありました。

 その問題とは、手先が不器用で、竹を上手に掴む事が出来ない事です。

 クマの5本の指には、鋭い鉤爪がついています。

 

 肉食のクマは、獲物を仕留める為に、鉤爪のついた手の平を深く折り曲げられれば十分で、複雑な動きは必要としません。

 実際、クマの5本の指は、単純な曲げ伸ばししか出来ません。

 

 では、パンダは、どのように器用に竹を掴めるようになったのでしょうか?

 この答えとなるのが、1930年代に注目された「パンダの第6の指」と呼ばれる骨です。

 この骨は「撓側種子骨」という骨です。

 

 撓側種子骨は、親指に、腕の筋肉からの力を伝える小さな骨です。

 パンダは、この骨を大きくする事で、器用に竹を掴めるように進化していきました。

 

 

 

 パンダと聞いて、座って竹を食べるポーズを思い浮かべる人は、多いのではないでしょうか?

 実際、パンダは、1日の半分以上の時間、竹を食べています。

 

 パンダが、こんなに食いしん坊なのは、消化管が、植物食用になっていない為です。

 パンダの消化管は、肉食動物であるクマのままなのです。

 

 肉食動物と植物食動物では、消化管の長さや構造に、大きな違いがあります。

 植物食動物は、植物に含まれる「セルロース」を分解しなければなりません。

 しかし、動物の体内には「セルロース」を分解する酵素がありません。

 その為、胃や腸の中に「セルロース」を分解出来る細菌を飼っています。

 

 

 この細菌の「培養タンク」を確保する為、植物食動物の胃・腸等は大きく膨らんでいるとともに、腸の長さも非常に長くなっています。

 国立科学博物館に牛の腸が展示されているので、足を運ばれた時には、是非観てみて下さい。

 牛の腸の長さは50mあるのに対し、パンダの腸の長さは8m程であり、ヒトとも大差ありません。

 

 上記の様に、肉食のクマの時代のままの腸を持つパンダの消化効率は、非常に悪いです。

 その為、食べた竹の多くは、未消化のまま、フンとして排出されてしまいます。

 

 植物食に適さない消化管を持つパンダは、栄養を補う為に、多くの竹を食べる必要があります。

 パンダは、1日10~20㎏、体重の1割程度の竹を食べるのです。

 パンダは、竹を食べて生きていくのに適する進化を遂げた部分がある一方で、クマと変わらない部分も残されています。

 

 

 愛くるしい姿と仕草で、動物園の人気者となっているパンダ。

 その身体には、まだ知られていない進化の痕跡が残っているかもしれません。