アメシストの加護

 「‥そういえば、アメシストの元の意味って酔わないじゃなくて、酔わせないなんだって言ってたよな。正直どう違うのかよくわからないけど。」

 「病院の地下駐車場に向かう間、宝石商は早口にレクチャーしてくれた。宝石に魔術的な効能があると、誰しもが信じていた時代、この宝石は持ち主を悪酔いから守ってくれる護符だったのだという。だから持ち主を酔わせない。何千年遡ろうが、この世に酒がある限り、人間はきっと飲みすぎに苦しんでいたのだろう。ほどよく飲むのは楽しい。理性のガードが甘くなる。でも飲み過ぎると地獄。だから誰かに守ってほしい。虫のいい話だけど、願いは切実だ。」

 「銀座の店でアメシストに出会った時、高槻さんはきっと望さんのことを考えていたんだろう。さっきの話からして、酔っ払わないでほしいと、守りたいと思って、そうして突っ走った。途中経過は最悪だと思うけれど、結果だけは悪くない。」

 『宝石商リチャード氏の謎鑑定』の一説です。

 

 2月の誕生石は、アメシストです。

 アメシストという言葉は、ギリシャ語のアメシストスに由来し、リチャードの言葉通り持ち主を酔わせない事を意味します。

 そして、持ち主を酔わせない対象は、酒だけに限りません。

 ルネサンス期のヨーロッパでは、理性を失い情熱のまま恋愛に突き進む若者を落ち着かせる効用もあると考えられていました。

 アメシストは、身に付ける者の思考をクリアにし、戦闘や商売の場においても、理性を持って対応出来る力を与えてくれると信じられています。

 

 人は、何かに酔わないと生きていけないのかもしれません。

 それは、酒かもしれないし、恋人かもしれないし、仕事かもしれないし、お金かもしれません。

 しかし、その対象に酔い過ぎていては、幸せになる事が出来ない事が、人生の奥深い所です。

 

 アメシストの石言葉は「真実の愛」「心の平和」「誠実」です。

 酔っていては、真実の愛も、心の平和も、誠実も訪れません。

 真実の愛も、心の平和も、誠実も、酔わせない先に存在しています。