…要圭は、確かに変わってしまった。でも、変わったのは、俺じゃないか…
…「いいなぁ」と言ってしまった…
…俺は、この言葉を嫌悪する。「いいなぁ」の根底には「貴方には才能があって」「運がよくて羨ましいな」という意味が含んでいるから…
…彼らの努力など、なかったことのように…
…運だけで勝ち上がった一流選手など存在しない。削って、削って、限界まで削って、死に物狂いでレギュラーの座をもぎ取る…
…巻田だってそうだ。身体(フィジカル)は運かもしれないが、球速を上げるための走り込みは欠かさなかったし、練習を休んだことも一度もない…
…「いいなぁ」の一言で、アイツの努力を無下にしてしまった…
…俺は、巻田に顔向けできない。この2人にも…
…要圭に至っては、身体(フィジカル)すらないにも拘わらず、あの清峰葉流火と、肩を並べてプレーをしていた…
…身体(フィジカル)を補う練習量は、俺が一番わかっていたはずなのに…
…もう一度、誇り高い自分を取り戻したい…
『忘却バッテリー』千早の脳内言葉です。
♦ウォーカーがいれば‥
24/25チャンピオンズ決勝トーナメントプレーオフにて、マドリーVSシティを、長らくフットボールを観ている人、全員の頭に今冬にミランにレンタル移籍したピッチ上で最速だった男の存在が、過ぎったのではないでしょうか?
シティがプレミア・チャンピオンズでコンスタントに結果を出し続けられた理由、イングランド代表がワールドカップ・EUROでコンスタントに結果を出し続けられた理由は、ウォーカーがいたからです。
22/23シーズンプレミアにおいて、33歳にして最高速度ランキングで、37,31㎞を出し、トップになったウォーカー。
私の中で、18/19シーズンから、23/24シーズンまでのベストイレブンの右サイドバックであったウォーカーは、彼がいれば負ける事はないと感じさせてくれる選手でした。
そして、試合を観ていて「○○がいれば」とDFの選手で感じたのは、19/20チャンピオンズ・ベスト16シティVSマドリーにおけるセルヒオ・ラモス以来でした。
「動いていないと‥じっとしてると、悪いイメージばかり浮かんでくるもんで‥。」
「えっ何故だね?」
「え‥?イヤ相手が‥」
「PGのマッチアップでは、ウチに分があると、私は見てるんだが‥。」
「えっ」
『SLUM DUNK』宮城と安西の会話です。
♦サッカーにおいて、このマッチアップは、必ず勝てるという箇所が1箇所でもあると勝利の可能性が高くなる
スパーズのホームスタジアムが、ホワイトハートレーンだった頃。
ピッチが狭く見えるミニマムなスタジアムを、右ウォーカー、左ローズが、圧倒的なスピードで何度も駆け上がる姿を観た時、フットボールのレベルが、また1つ上がったと確信した事を、記憶しています。
しかし、ウォーカーは、スパーズに現れた新星右サイドバックでトリッピアを、当時の監督ポジェッティーノが重宝した為、ウォーカーは、ベンチを温める機会が多くなっていきました。
その時に、怒りを露わにする若きウォーカーの姿が、現在でも目に焼き付いています。
ウォーカーは、そのシーズン終了後、後に世界一のチームになるシティに移籍します。
サッカーとは不思議なもので、仮に相手に試合を支配されたとしても、必ず勝てるというマットアップが、2カ所あれば、勝利出来る事があります。
その必ず勝てるというマッチアップが、ウォーカーでした。
♦ペップのチームにいけば、戦術理解度が上がり、サッカーが上手くなる
ウォーカーは、サッカーが、上手くありません。
何をもって、サッカーが上手いとするのかは千差万別ですが、少なくともボールを自在に操るという意味での、サッカーの上手さは、持ち併せていません。
これは、ペップのチームに入っても、変わりありませんでした。
上手くないサイドバックがよくやる仕草である、センターバックからのパスを、膨らみながら貰うというボールの貰い方をしては、前に蹴るしか選択肢がなくなってしまいます。
高校サッカーやJリーグが前に蹴るばかりで面白くない事の要因の1つに、サイドバックの、上記のボールの貰い方があります。
ウォーカーは、ペップのチームに何年いても、上記のようなボールの貰い方を続けます。
それでも、負けられない試合においては、ペップは、ウォーカーを出さざるを得ません。
ウォーカーを試合に出す事により、負ける可能性を、確実に減少させる事が出来るからです。
1人で守備の問題を解決出来てしまう選手の存在は、希少です。
…俺たちは全員、大なり小なり、お山の大将だ…
…己が一番であり、選ばれた者であると、心中期待している…
…葉流火の球と、俺のリードで、彼らに対し、1つの答えを出す…
…お前ではないと…
『忘却バッテリー』要圭の脳内言葉です。
♦プレミアの登竜門
私は、三苫が、ウォーカーを抜く事が全く出来ない様子を観て、とても嬉しくなりました。
これは、長年プレミアを観続けている人にしか理解出来ない感覚かも、しれません。
チャンピオンズの約束事のようになったシティVSマドリーにおいて、ヴィ二シウスとの1対1も、語り草です。
「お前ではない」という答えを出すウォーカーの1対1に、敗北したウィンガーは、数知れません。
しかし、時間の経過とは、残酷なもの。
今シーズンのウォーカーからは、かつてのような1対1で「お前ではない」という答えを突きつけるような、迫力も実力もなくなっていました。
「マンチェスターに残ることもできたし、もし彼らが私の移籍を認めなかったら契約を守っただろう。それが私という人間だからだ。しかし、結局のところ、『よし、何か違うことに挑戦してみよう』と思うような挑戦に行き着く。」
「海外に移籍しなかった元選手たちとたくさん話したが、彼らは移籍しておけばよかったと言っていた。もしビッグクラブでなかったら、シティに残っていたと思う。断れないクラブは限られている。これは私が望んでいたチャンスだった。直感的にそう感じた。」
ミランへの移籍を決断したウォーカーの言葉です。
イタリア推しの私としては、ウォーカーのミラン移籍は、悲しさがあるものの、喜びがあります。
不思議なもので移籍後最初の試合では赤と黒のユニホームが全く似合っていないと感じたものの、試合を重ねるにつれて、ユニホームが似合うようになっていきます。
衰えが見えるようになり、現時点においては、世界最高ではなくなったウォーカー。
しかし、コパイタリア、ローマ戦の前半16分で魅せた、1人で失点のリスクを事前に防いでしまうようなプレイを、まだ魅せる事が出来ます。
上記のようなウォーカーのスーパープレイに気付く事が出来る人は少数であり、誰も取り上げる事もありませんが、このようなスーパープレイを何度も重ねる事で、シティもイングランド代表も、負けないチームとなっていきました。
日本において、生で観る事が出来て感動した選手の1人であるウォーカー。
彼の挑戦を、あと少しだけ、少し笑いながら、見守っていきたいです。