♦彼が残したのはゴールではない。世界中の子どもたちが、ボールを蹴る理由だ
ーー少年は、小さかった。
世界の基準では、あまりにも。
医師は「このままでは成長できない」と言った。
少年にとって、サッカーは、夢だった。
しかし、夢には金が掛かり、未来は保証されていなかった。
それでも、少年は、ボールを蹴り続けた。
まだ、誰にも見られていない頃から、ずっとーー。
少年は、ボールと自分の足だけが知っている時間を、積み重ねていった。
やがて、少年は海を渡る。
家族と共に、人生を懸けて。
紙ナプキンに書かれた1枚の約束。
その約束は、1人の選手とチームとの契約ではなく、やがて、サッカーの希望を、否、人生の希望を、世界中の子ども達に届ける扉となるーー。
ー小さかった少年は、大きな身体を手に入れたのではない。世界の時間を動かす力を、手に入れたー
私が思う最強の魔法は、時間を操る「時間魔法」です。
私の中での10番とは「時間魔法」を操る事が出来る選手です。
10番は、速くプレイしません。
10番とは、速くプレイする選手ではなく、試合全体の時間を支配する選手の事を呼びます。
メッシのドリブルは、相手を抜く為ではないーー
☆相手を自分の所に、集める
→集まった瞬間、仲間の前から敵は消える
★メッシが支配しているのは、ボールではない
→仲間が前を向ける「時間」と「景色」である
ーーメッシを世界一にした国は、アルゼンチンかもしれない。
けれど、メッシをメッシにした国は、スペインだった。
スペイン。
その国は、少年の身長ではなく、少年の才能を見た。
「何cmなのか」ではなく「何が見えているのか」を、信じた。
少年に成長ホルモンを与えたのは、医学だったかもしれない。
けれど、メッシをメッシにした栄養を与えたのは、スペインのサッカーだったーー。
ー10番は、ボールを前へ運ぶのではない。時間を、未来へ運んでいるのだー
普通の選手は、空いているスペースにドリブルをします。
99%の指導者も、そう教えます。
しかし、メッシは逆です。
敢えて、相手が密集している場所へ入っていく。何故ならーー
☆敵が、1人来る
★敵が、2人来る
☆3人目も、カバーに来る
ーーその瞬間、他の場所では数的優位が生まれます。
「時間魔法」を操る事の出来る10番のドリブルの目的は、突破する事ではありません。
「時間魔法」を操る事の出来る10番のドリブルの目的は「相手の守備を動かす事」にあります。
ーーシャビがいた。イニエスタがいた。
彼らは少年に、仲間を活かし、相手を動かし、時間を支配するという、サッカーの美しさを教えた。
それが今、活きている。
39歳になったメッシは、昔みたいに1人で何人も敵を抜き去ることはできなくなった。
敢えて敵が集まる場所へ、入っていく。
自分に相手の視線が集まることで、仲間に自由と景色を、手渡す。
その左足には、アルゼンチンの情熱だけが宿っているわけではない。
スペインで少年から青年、1人の男になった時間が、今も刻まれているーー。
ーボールが旅をするたび、景色は変わる。景色が変わるたび、時間は生まれるー
メッシのパスは、味方へ届ける為にあるわけではありません。
もう1度、相手の首を振らせる為にありますーー。
☆中央から右へ
★右から左へ
☆足元から裏へ
★守備が一斉に振り返るしかないセンタリング
ーーボールが旅をする度、相手の景色は変わります。
その景色の変化が、1秒の余白を生み出します。
10番は、ボールを動かしているのではありません。
10番は、相手の視線を動かし、時間を生み出すのです。
ーーだから私は、夢を見る。
ワールドカップ決勝で観たいのは、現在のスペインとアルゼンチンではない。
2010年のスペインと、現在のアルゼンチンである。
それは、ただの決勝戦ではない。
1人の少年を信じた国と、その少年が世界一へ導いた国との再会だ。
かつて世界は、彼の身長を測った。
しかし歴史は、彼が動かした人の数を記憶したーー。
ー過去と、現在の邂逅。スペインとアルゼンチン、メッシとバルサー
メッシがボールを持つと、守備は彼を止めようとします。
しかし、その瞬間に奪われているのは、ボールではありません。
彼らが奪われているのは、自分達の時間ですーー。
★視線が、揺れる
☆身体が、揺れる
★判断が、揺れる
ーーその視線・身体・判断の往復が、守備から「一瞬」を奪います。
そして、その「一瞬」が、味方に「時間」と「景色」を、プレゼントします。
ーーそれは、1人の少年を育てたサッカーと、その少年が世界へ返したサッカーが出逢う最後の物語であるーー。