俺にとって物語は夢ではなく、俺を現実から連れ去ってくれる必須の手段だった

 

 …男に夢中になるたび息子の存在を忘れる母親。男と会うために小学生だった俺を家にひとり置いておくなんて日常茶飯事だった…

 …母親は昔からスナック勤めだったので留守番には慣れていたが、寂しさにまで慣れることはできない。ひとりの夜、俺は漫画の世界に逃げ込んだ。友人から借り、近所の古本屋で立ち読みし、読んでも読んでも尽きない仮想世界が俺を慰め、現実から逃がしてくれたのだ。俺にとって物語は夢ではなく、俺を現実から連れ去ってくれる必須の手段だった…

 …そのうち自分でもノートに漫画のようなものを描くようになった。けれど俺には絵のセンスがなかったようだ。頭の中にあふれる世界を早く形にしたくて台詞ばかり書いていき、段々とそちらが多くなったというわけだ…

 『汝、星の如く』の一説です。

 

 

 不安やストレスを書き出して、自分と切り離す事を「外在化」と呼びます。

 不安やストレスを書き出し、観察可能にする事で、不安やストレスを脳のワーキングメモリの外に出す効果があります。

 

 シカゴ大学が外在化の効果を測定する為に、興味深い実験を行っています。

 大学生20人を2つのグループに分け、数学のテストを2回受けさせ、点数を測定しました。

 1回目のテストが終了した後「成績優秀者には賞金がある。だが、悪ければ連帯責任だ」等と全員にプレッシャーを掛けました。

 

 ただし、2つのグループのうちの、1つのグループには2回目のテストを受ける前に、テストに対する不安を書き出して貰いました。

 すると、ただプレッシャーを掛けられたグループの成績は12%下がったのに対し、不安を書き出したグループの成績は5%上がったのです。

 

 

 私達の脳のワーキングメモリには、限度量があります。

 しかも、その限度量は極めて少なく、脳のメモ帳は3~4枚程度の枚数しかなく、1度に扱える情報の数も3~4個程度とされています。

 不安やストレスにより脳に負担が掛かっている状況では、たった数枚しかない脳のメモ帳のうち何枚かが不安やストレスの処理に使われてしまいます。

 

 そうなると、考える為のメモの枚数が減少し、頭が働かなくなってしまいます。

 不安やストレスは、私達にとって欠かせないものです。不安やストレスを他の生物より感じる能力が高いからこそ、人類は生き延びる事が出来ました。

 アメリカの長寿者を対象にした研究では、長寿者の共通点は、現在も仕事をしているか、最近まで仕事をしていたというものでした。

 

 多くの人にとって、仕事=ストレスですが、人には「軽度のストレス」と「程よい不安や緊張」が必要なのです。

 仕事を引退した人は、人との接触頻度・会話量・コミュニケーション量が減少します。

 仕事を引退した人は、記憶力が25%低下し、鬱病の発症リスクが40%、認知症の発症リスクが15%上昇します。

 

 軽度のストレスと程良い不安や緊張が、長寿に欠かせない事は理解出来ました。

 しかし、多くの人は、仕事や子育て又は介護・家事等に忙殺され、日々の生活の中で大きな不安やストレスを抱えています。

 その時には、不安やストレスを書き出してみて下さい。

 

 「外在化」するだけで、脳のワーキングメモリの負担が減少します。

 不安やストレスに向き合う事は大切ですが、それ以上にあなたが頭を使うべき事があるはずです。

 限られた脳のワーキングメモリを、あなたが輝く事に使って頂く為に、不安やストレスを脳から外に出す事をお勧めします。