自分をその人より優れているとも、偉大であるとも思わないこと。また、その人を自分より優れているとも、偉大であるとも思わないこと。そうした時、人と生きるのがたやすくなる

 「あの日、清居はテストで百点を取った。それも苦手な国語で。ランドセルを下ろす余裕もなく、鼻高々に母親にテスト用紙を見せたとき、またもや弟が泣きはじめ、母親はそちらに行ってしまった。いつもなら我慢して待つところ、生まれて初めての百点に興奮していた清居は母親を横取りされた怒りのまま大股で近づき、弟の頭を強く叩いた。」

 「ー奏。」

 「あの時の母親の声と顔は忘れない。びくりと後ずさった清居に構わず、母親はがくんと首を反らしている弟をしっかりと抱きかかえて首を据わらせた。」

 「ー太緒、大丈夫、大丈夫よ。太緒、いい子ね。いい子ね。」

 「母親はこちらに背を向け、泣いている弟に優しい声をかける。」

 「ー奏はお兄ちゃんでしょう。どうしてこんなひどいことするの。」

 「やはり背中を向けたまま、母親は清居を叱りつけた。」

 

 「お母さん、こっち向いて。お母さん、俺を見て。見てよ。ねえ、見てったら。それらは言葉にならず、清居は百点のテストを手に、黙って自分の部屋に上がった。あんなに誇らしかった答案用紙をくしゃくしゃと丸めてゴミ箱に捨てた。三角座りの膝に顔を伏せているとノックの音がして、母親がおそるおそるというふうに顔を出した。」

 「ー奏、さっきお母さん怒りすぎたね。ごめんね?」

 「母親はいつもの優しい顔をしていた。」

 「ーテスト百点だったね。すごいね。お母さんに見せて。」

 「ーもういい。」

 「ーそんなこと言わないで。」

 『美しい彼』の一説です。

 

 どんなに優れた組織心理学の処方箋があっても、全ての組織において、適合するわけではありません。

 とりわけ、人間関係の凸凹においては、そこまで単純な話で解決する事はない事がほとんどです。

 同じ人間でも、場所が変われば、処方箋の効果も異なります。

 その中で1つわかってきている事は、人間関係の凸凹は、チームの規模に影響されるという事です。

 同程度の人間関係の凸凹でも、小規模のチームで存在している場合と、大規模のチームで存在している場合では、チームに与える影響が全く異なります。

 

 北京大学が、中国の会社を対象に調査を行いました。

 小規模とは4~5人のチーム、大規模とは10人程度のチームを指します。

 まず、小規模でも大規模でも、ある程度の人間関係の凸凹の関係は、協力し合い、チームのパフォーマンスを促す刺激になりました。

 しかし、人間関係の凸凹が大きい、たとえば、上司との関係性が極めて良好な部下がいる一方で、上司との関係が非常に険悪な部下もいるといったような場合では、チームのパフォーマンスが極めて低下する事がわかりました。

 

 この傾向は、小規模のチームにおいて顕著でした。

 少人数しかいないチームの中で、依怙贔屓があると、部下同士は協力し合う事をせず、その結果チームのパフォーマンスは著しく低下しました。

 小規模のチームの場合は、大規模のチームよりも、お互いの存在をより明確に、個別に認識し合える状態にある為、上司の依怙贔屓が明確にわかってしまいます。

 リーダーは、小規模のチームを構成する場合、凸凹の少ない良好な人間関係を構築する事が、チームのパフォーマンス向上の為に必要不可欠です。

 

 これは、会社だけではなく、家族にも当てはまります。

 否、会社以上に親密な関係性を構築する家族の方が当てはまる部分が大きいかもしれません。

 自身の言動に偏りがないかを常に見る目が、小規模の集団をよい形で継続していく為に必要となります。