君はいくつか死線を超えてきた。でも、それで大人になったわけじゃない。枕元の抜け毛が増えていたり、お気に入りの惣菜パンがコンビニから姿を消したり、そういう小さな積み重ねが、人を大人にするのです

 

 「もういいんだ。津美紀が、理不尽な不幸に晒されることのない世界を作りたかった。作れなくてもせめて、俺の生きている間、俺の目の届く範囲では、そんな脆い生活を維持したかったんだ。」

 「手癖で作った料理を食べて、陽の当たる洗濯物を眺めて、西日のなか虎杖(オマエ)のような人間と肩を並べて歩く津美紀を見送って、ああ幸せだなって。でも、もういんんだ。」

 

 「‥‥爺ちゃんの病気は、肺癌から始まったんだけど、結構早い段階で副作用が強いキツめの治療を拒否したんだ。俺は、体が丈夫だから、そういう治療を拒むとか、たまに聞く安楽死の話とか、いまいちピンと来ないというか、どこか他人事だったんだ。俺なら我慢できるけど、本人は辛いんだろうなって。」

 「でも、高専にきて、最悪の思いをいっぱいして、これが延々続くって考えたら、爺ちゃんとかどうしようもない現実にぶつかった人達の選択に共感できるようになった。」

 

 「だから、だから今の伏黒に生きろなんて言えない。」

 『呪術廻戦』伏黒と虎杖の会話です。

 

呪術廻戦 266話 ”人外魔境新宿決戦37”伏黒復活の兆し⁉︎優勢な ...

 

 

 『呪術廻戦(呪術)』が、あと3話で連載終了を迎えます。

 実力主義である『JUMP』は、合併号等の表紙において、各作品の主役達が表紙を飾ります。

 そして、その各作品のキャラクターの立ち位置と大きさが、そのまま人気と実績を、物語ります。

 

 「JUMPSHOP」20周年を記念して6月27日~7月27日まで、サンシャインで開催された「期間限定JMUPSHOP池袋」。

 『ドラゴンボール』から『SAKAMOTO DAYS』まで、昭和から現代までを彩ってきた各作品、否、各キャラクターを推す人達が、日本中から集まっていました。

 透明なバッグに、推しのキャラクターの缶バッジを、隙間なく魅せる「痛バッグ」。

 最も「痛バッグ」をされているキャラクターは『呪術廻戦(呪術)』五条悟でした。

 

 ポイントと交換出来る五条のブロマイド交換の為に、1時間10分並んだ事も、今では良き思い出です。

 

 

 2020年7月20日『ハイキュー』が連載終了を迎えてから、王者『ONEPIECE』を支える両翼は、ずっと『僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)』『呪術廻戦(呪術)』でした。

 2024年8月5日『僕のヒーローアカデミア』が連載終了を迎え、時をほぼ同じくして『呪術廻戦(呪術)』も連載終了を迎えます。

 

 

 「生きたいと言えェ!!!!」

 高校2年生の時に、読んだ『ONEPIECE』ルフィの、この言葉に心打たれた事を、記憶しています。

 

 しかし、あれから20年程が経過した現代の最前線の作品は「生きろなんて言えない。」にまで、心理描写が進化してきています。

 

 

 10年程前のブログにおいて、私は「家族」を軸に描く『ドラゴンボール』を昭和の物語、「仲間」を軸に描く『ONEPIECE』を平成の物語であると称しました。

 令和となり、「家族」も「仲間」も大切な存在として描くものの、「家族」も「仲間」も常に一緒にいる存在ではなく、「家族」「仲間」という横の関係だけではなく「教師」「上司」「師」等、縦の関係を描く作品が多くなり、これにより、作品の心理描写が、より立体的なものに変化しています。

 

 私は、昔から、主人公をあまり好きになりませんし、その仲間もそこまで好きになりません。

 それよりも、敵であったり、主人公達を導く「大人」を好きになってしまいます。

 

 

 漫画の主人公であるヒーロー像は、時代の鏡です。

 それぞれの時代を生きる人々の憧れや、切実な感情を体現する存在、それがヒーローです。

 

 平成初期に誕生した『ONEPIECE』と『名探偵コナン』

 ルフィ、コナンともに、どんな困難に見舞われても、常に立ち向かうヒーローです。

 その強さとブレの無さは、昭和時代に確率された王道ヒーロー像を受け継いでいます。

 

 

 『ハリーポッター』旋風が巻き起こった平成中期は、漫画界においても、ファンタジー作品が台頭します。

 正義感に満ちた死神代行者『BREACH』の黒崎一護。

 忌み嫌われる錬金術師として生きる道を選ぶ『鋼の錬金術師』のエド。

 巨人の餌と化した人類の恐怖と絶望を描く『進撃の巨人』のエレン。

 各雑誌毎に、カラーの異なるファンタジー・ヒーローが生まれます。

 

 また、この頃より、週刊誌ではなく、月刊誌において、記載する作品の爆発的ヒットが生まれ、ネットに普及により、必ずしも毎週のように書店・コンビニに並ぶ『JUMP』や『マガジン』等に連載をしなくても、人気・実績を出す作品を生み出す事が可能になりました。

 さらに『進撃の巨人』に代表されるように作品が社会現象となり、リヴァイのような推しの為に、生きていく人を生むようになったのも、この時代からです。

 

 

 平成後期になると、ヒーロー像は、さらに多様化します。

 才能に恵まれない者が、努力と巡り合いにより成長していく『僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)』のデク。

 優しい少年が不良の世界で生きていくとともに、タイムトラベル要素も組み込んだ『東京リベンジャーズ』のたけみっち。

 生まれながらに特異的な身体能力を持つものの、自分というものがあまりない良い奴である『呪術廻戦』の虎杖。

 さらに、異世界転生の先駆けとなる『転生したらスライムだった件』文豪と同じ名を持つキャラクターが文豪作品所縁の異能力を手にしてバトルを繰り広げる文豪ストレイドック』、刀が擬人化し歴史の修正を阻む『刀剣乱舞』等、小説やゲームのコミカライズ、擬人化等の作品が次々に誕生します。

 

 また、この頃より、主人公よりも、主人公ではないキャラクターが支持されるようになっていきます。

 『僕のヒーローアカデミア』ではかっちゃん、『東京リベンジャーズ』ではマイキー、『呪術廻船(呪術)』では五条悟。

 逆境の中、真っすぐ進んでいく主人公では描ききれない、そして、その事に漫画を読む多くの読者も気付き始めた時代において、嫉妬・後悔・絶望・諦め等の感情を描く主人公ではないキャラクターに、読者は心を動かされる時代となっていきます。

 

 

 令和になると、ヒーロー像の描き方が、さらに拡大します。

 才能に恵まれず夢を諦めた30代の男が、幸か不幸か怪獣の力を手にし夢を叶えていく、否、現実と戦っていく『怪獣8号』のカフカ。

 殺し屋を引退したものの、勝手に懸賞金が掛けられ、家族を守る為に戦っていく、否、現実と戦っていく元・殺し屋の『SAKAMOTO DAYS』の坂本。

 ヒーロー(桃太郎)に討たれる鬼、悪役側からヒーロー像を炙りだしていく『桃源暗記』の四季。

 

 この頃より、ターゲットは、日本だけではなく、世界も含まれるようになっていきます。

 今や日本の漫画・アニメは、ハリウッド映画以上に、世界の共通言語となってきています。

 

 

 「一番強い奴になる」「海賊王になる」

 昭和・平成初期の作品の主人公は、ある意味漠然とした大きな目標があり、その目標に向かう姿に、共感してきました。

 しかし、その共感とは、自分達が生きる世界とは異なるものであるという認識の下の共感でした。

 

 平成中期から後期になってくると、主人公達の目標は、地に足のついたものになっていきます。

 否、目標というよりも「家族を守る」「友達を守る」等がスタートで、その結果、世界を救っていたようなものに変化してきています。

 若しくは、復讐。

 『進撃の巨人』『鬼滅の刃』『カグラバチ』等、復讐の過程で、結果的に世界も救っていくような物語も多いです。

 

 現実世界においても、あり得る身近な願いが、物語のスタートになっている事が多いです。

 現実世界において、漫画のような殺すという復讐は出来ませんが、悔しい思いや屈辱的な気持ち、怒り等を復讐心として、努力をし続け、力をつけ復讐するという形であれば、復讐の物語も身近な願いとなります。

 

 

 

 漫画の主人公であるヒーロー像は、時代の鏡です。

 それぞれの時代を生きる人々の憧れや、切実な感情を体現する存在、それがヒーローです。

 

 平成後期と令和を代表する作品。 

 『呪術廻戦(呪術)

 

 また、1つ私の中の当たり前がなくなるのは悲しい事ですが、なくなる事により、新しいものが生まれる事も、また理。

 

 「オマエがいないと、寂しいよ。伏黒。

 『呪術廻戦(呪術)』虎杖の言葉です。