いつかサッカーを辞めても、心に残るものーサッカーが育てるのは、技術ではないー




 ーー子どもは、ドリブルを覚えるために、サッカーをしているのではない。

 シュートを上手く打つためだけに、サッカーをしているのではない。


 子どもは、ボールを追いかけながら、もっと大切なものを学んでいる。

 それは、この世界と、どう付き合っていくかということだ。




 幼い子どもにとって、世界はまだわからない場所だ。



 失敗したら、どうなるだろう?

 負けたら、価値がなくなるのだろうか?

 出来ない自分は、受け入れて貰えるのだろうか?



 子どもは、そんな問いを言葉にはしない。

 けれど、その答えを毎日の体験の中から探しているーー。






  ♦忘れていく技術。残り続ける感覚。ゴールよりも大切なもの



 子どもが、サッカーを学ぶというと、多くの人は、ドリブルやパス・シュート等の技術の習得を思い浮かべます。

 もちろん、これらはサッカーを楽しむ上で大切な要素です。


 しかし、幼児期や児童期に、子どもがサッカーを行う事には、技術習得以上に、大切な事があります。


 子どもは、サッカーを通じて、思い通りにならない現実と出逢いますーー。


   ☆ボールは、思った場所にいかない

   ★相手に、ボールを取られる

   ☆試合に、負ける


 ーーサッカーは、成功体験だけではなく、失敗や挫折を、安全に経験出来る場でもあるのです。






 
 ーーサッカーには、その答えが詰まっている。


 ボールは思い通りに転がらない。相手はボールを奪いにくる。

 転ぶこともある。仲間も自分の思う通りには動かない。

 負けることもある。悔しくて泣くこともある。


 サッカーとは、小さな思い通りにならなさの連続である。




 だからこそ、そこには人生の縮図がある。

 人生もまた、思い通りにならないことの連続だ。



 努力しても失敗する。頑張っても負ける。

 大切な人と、分かり合えないこともある。


 サッカーをするとは、その練習をするようなものであるーー。






  ー子どもが見ているのは、失敗そのものではない。失敗した時の大人の目であるー



 子どもの成長において大切なのは、失敗しない事ではありません。

 子どもの成長において大切なのは、失敗しても、もう1度挑戦出来る事です。


 その為には「できた・できない」だけで評価される環境ではなく「挑戦しても大丈夫」「失敗しても受け入れて貰える」という環境が、必要になります。




 心理学では「人は安心出来る土台があるからこそ挑戦できる」と考えられています。

 これは、子どもも同じです。

 大人が結果だけでなく、その過程や気持ちに目を向ける事で、子どもは少しずつ「失敗しても自分の価値は変わらない」という感覚を身につけていく事が出来ます。







 ーー人を育てるのは、失敗そのものではない。

 失敗した時に、どのような関係の中にいるのかである。


 ボールを取られた時。シュートを外した時。試合に負けた時。

 その時に「何やってるんだ」が返ってくる世界と「もう一回やってみよう」が返ってくる世界では、子どもが学ぶ人生はまるで違う。




 人は、成功によって強くなるのではない。

 人は、失敗しても見捨てられなかった時に、強くなる。


 出来なくても、受け入れられた。
 
 その経験が、人生の土台になるーー。






  ー子どもは、サッカーを通して勝ち方を学ぶのではない。失敗しても、自分を見失わない方法を学ぶのであるー



 サッカーは、社会性を育む場でもあります。

 
 サッカーは、1人では出来ません。

 仲間と協力し、自分の思い通りにならない相手とも関わりながら進んでいきます。


 その中で、子どもはーー

 
   ☆自分の気持ちを伝えること

   ★人の気持ちを聞くこと

   ☆仲間を応援すること


 ーーを、学んでいきます。


 これは、集団の中で自分らしく存在しながら、他者とも繋がる力を育てる経験になります。







 ーーサッカーを通して、失敗しても大丈夫だった、ということ。

 挑戦してもいい、ということ。

 違ってもいい、ということ。


 仲間といることの安心。

 そして、自分でいることの安心。


 そんな感覚を、子どもたちに渡したい。




 いつか、子どもたちは、サッカーを辞めるだろう。

 
 シュートの打ち方も、忘れるかもしれない。

 試合に勝った喜びも、試合に負けた悔しさも、覚えていないかもしれない。


 でも、転んでも立ち上がれたこと。

 失敗しても、受け入れられたこと。

 出来ない自分のまま、そこにいても良かったこと。


 その感覚は、きっと、心のどこかに残り続けるーー。






  ー子どもは、シュートの打ち方を忘れる。でも、自分を信じられた感覚は人生に残り続けるー


 幼少期の運動経験は、身体能力だけではなく、自己肯定感や主体性の形成等にも影響しますーー。


   ☆やってみたい

   ★もう1回挑戦したい

   ☆次はできるかもしれない


 ーーこうした気持ちは、サッカーだけでなく、その後の学習や人間関係にも繋がっていきます。




 大人が子どもにサッカーを教える本質は、上手な選手を育てる事ではありません。

 サッカーを通じて、自分で考え、挑戦し、失敗から学び、人と繋がる経験を積む事です。


 そして何より「自分はここにいていい」「失敗しても大丈夫」と感じられる時間を提供する事です。

 

 サッカーという遊びの中で、挑戦する力・他者と関わる力・自分を信じる力が、少しずつ育っていきます。

 これこそが、幼児期・児童期のサッカーが持つ、最も大きな価値だと思います。






 ーーそしていつか、新しいことに挑戦する時。

 人と、ぶつかった時。

 人生が、思い通りにならない時。


 子どもは、無意識に思い出す。



 「あの時も上手くいかなかった」「でも、もう一回できた」

 「大丈夫だった」



 サッカーが育てるのは、技術ではない。

 サッカーが育てるのは、失敗しても、自分は戻ってこられる場所があるという感覚である。


 そして、この感覚こそが、人が人生を歩いていくための、本当の強さなのだと思うーー。