伝説とは奇跡の瞬間ではなく、諦めなかった時間のことを呼ぶ2ー完璧なドラマの続編、リオネル・メッシ



 

  ♦彼が残したのはゴールではない。世界中の子どもたちが、ボールを蹴る理由だ

 

 

 

 少年は、小さかった。

 

 世界の基準では、あまりにも。

 

 

 医師は「このままでは成長できない」と言った。

 

 少年にとって、サッカーは、夢だった。

 

 しかし、夢には金が掛かり、未来は保証されていなかった。

 

 

 

 それでも、少年は、ボールを蹴り続けた。

 

 まだ、誰にも見られていない頃から、ずっとーー。

 

 少年は、ボールと自分の足だけが知っている時間を、積み重ねていった。

 

 

 やがて、少年は海を渡る。

 

 家族と共に、人生を懸けて。

 

 紙ナプキンに書かれた1枚の約束。

 

 その約束は、1人の選手とチームとの契約ではなく、やがて、サッカーの希望を、否、人生の希望を、世界中の子ども達に届ける扉となる。






  ー世界は、メッシがワールドカップを獲った日のことを覚えている。私は、彼が「信じてほしい」と願った日を忘れないー



 多くの人は、メッシが欲しかったのは、ワールドカップ優勝であると思っていました。

 確かに、それは間違いではありません。

 世界最高の選手である以上、世界一のトロフィーを求める事は、当然です。


 しかし、私は違うと思っています。

 メッシが本当に欲しかったもの。それはーー


   ★ワールドカップではない

   ☆コパアメリカではない

   ★バロンドールでもない


 ーーアルゼンチン国民からの、心からの拍手です。







 ーー彼は、世界一になりたかったのだろうか?

 その答えは、きっと「YES」だ。

 けれど、彼が少年だった頃から観ている私の目には、彼がそれ以上に欲しがっていたものがあるように映る。



 彼が欲しかったものーそれは、祖国からの拍手だ。




 彼を育ててくれたバルサで、どれだけゴールを決めても、どれだけタイトルを獲っても、5度バロンドールを受賞しても、彼の心には、埋まらない何かがあった。

 なぜなら、人は世界に認められるより先に、大切な人に認められたい生き物だからだ。



 彼は、自分が生まれた国、アルゼンチンを愛していた。

 だから、苦しかった。

 愛していなければ、批判など、痛くはなかったーー。






  ー人は、希望があるから信じるのではない。信じることをやめなかったから、希望に辿り着くー



 「信じてほしい。このグループ(チーム)は、あなたたちを見捨てたりはしない。」


 2022年。

 カタールワールドカップの初戦に敗れた直後、メッシがアルゼンチン国民に送ったメッセージです。




 サッカーとは、時々物語より、残酷です。

 アルゼンチンは、初戦で敗れます。

 多くの人が「今回も、ダメかもしれない」と思いました。



 「信じてほしい。」


 それは、神の言葉ではありません。

 それは、不安を知る人間の言葉でした。



 1人の不安を知る人間の言葉だからこそ、アルゼンチン国民の心に届いたのです。

 彼は、その不安を知っていましたーー。


   ★2016年代表引退を決意した夜を

   ☆代表では別人と言われ続けた十数年を

   ★世界中から批判され、自分自身も信じられなかった時間を


 ーーそれでも、彼は戻ってきました。何度も、何度も、何度も。



 彼は、知っていました。

 終わったと思った場所から、物語は再び始まる事を。







 ーー2016年。彼は、代表を去る決断をする。

 敗北したからではない。心が折れたからだ。


 世界最高の選手と呼ばれながら、祖国では足りないと言われ続けた。

 彼は神と呼ばれながらも、誰よりも祖国に愛されたかった男だった。





 ーー2022年。初戦で敗れた夜。

 再び世界が、騒ぎ始める。


 もう無理だ。終わった。やっぱりダメだ。

 そんな声が、聞こえてきた。



 その時、彼は言った。「信じてほしい。」

 それは、神の言葉ではない。


 何度も信じることをやめそうになりながら、それでも前を向いてきた1人の男の言葉だった。

 だから、届いた。




 そして、世界は知る。

 伝説とは、負けなかった人の名前ではない。

 何度負けても、希望の側に立ち続けた人の名前であるとーー。





  ー信じてほしいと言えたのは、強かったからではない。信じられない夜を知っていたからだー


 2021年。

 彼は、トロフィーを手にした。


 2022年。

 彼は、ワールドカップを手にした。


 けれど、彼が本当に手にしたのは、そのどちらでもありません。

 彼が本当に手にしたのは、何十年も求め続けたアルゼンチン国民からの拍手でした。




 世界は、完璧なドラマのフィナーレを観て、この物語は完結したと思いました。

 しかし、2026年38歳になった少年は、まだボールを蹴っていました。



 そして、初戦。

 ハットトリック。ワールドカップ最多得点記録。



 20年以上メッシを観てきた私にとっては、見慣れた光景。
 
 しかし、それはメッシが赤と青のユニホームを着ていた時の話。

 水色と白という、彼が少年の頃から見上げていた祖国の空のような色のユニホームを着ているメッシを観慣れたのは、ここ数年の話。




 メッシのハットトリックに、世界は歓声を上げます。

 だが、本当に美しいのは、その3つのゴールではありません。


 本当に美しいのは、そのゴールへ辿り着くための30年以上の遠回りですーー。



   ★小さすぎると言われた日

   ☆代表を去ろうとした日

   ★最愛のクラブとの悲しい別れ

   ☆信じてほしいと願った日



 ーーその全ての遠回りが、現在のメッシを作っているのです。



 
 

 ーー彼は、神ではない。

 

 神だったら、ここまで苦しまなかった。

 

 

 ここまで、遠回りもしなかった。

 

 ここまで、多くの涙を流す事もなかった。

 

 

 伝説とは、完璧な人が作るものではない。

 

 伝説とは、壊れそうになりながらも、それでも歩み続けた人間が作るもの。

 

 

 その伝説の名前を、世界は知っている。リオネル・メッシーー。





 完璧なドラマの続編を、世界が待っています。