ーー遠くへ行くことを、誰も止めなかった。
小さな手は、知らない世界へ、伸びていく。
何度も転び、何度も立ち上がり、少しずつ、見える景色を増やしていく。
けれど、ときどき、振り返る。
そこに帰れる場所があることを、確かめるようにーー。
ー人は、離れられるから自立するのではない。帰れる場所があるから、遠くへ行けるー
子どもは、離れていくーー。
☆自分で、歩きたい
★自分で、経験したい
☆自分の目で、世界を体験したい
ーーけれど、少し怖くなると、振り返る。
振り返った先に、ママやパパがいる事を、確かめる。
そして、安心すると、また歩き出す。
親は、その姿を見て「成長した。」と、感じるーー。
☆自分で、出来る事が増えた
★1人で、行ける場所が増えた
ーー少しずつ、自立に近づいている、と。
けれど、子どもは、安心出来る人から離れる事で、成長しているのでしょうか?
それとも、安心して戻れる場所があるからこそ、離れていけるのでしょうか?
ーーいつか、振り返らなくなる日が、来るのだろう。
自分の足で歩き、自分の言葉で決め、自分の人生を生きていく。
それでも、誰かの声に救われる日が、あってもいい。
誰かの手を必要とする日が、あってもいい。
遠くまで歩いていけることと、もう帰らなくていいことは、同じではないのだからーー。
ー愛情とは、離れないようにすることではない。安心して、離れていけるようにすることー
「保育の心理学」では、子どもがママやパパ等、特定の養育者との間に築く、情緒的な結びつきを「愛着」と、呼びます。
この「愛着」の研究で知られるのが、ボウルヴィです。
彼は、子どもがママやパパと、安心出来る関係を築く事が、その後の発達において重要な意味を持つと、考えました。
ここで重要になるのが「安全基地」という、概念。
「安全基地」とは、子どもが安心して探索に出掛け、必要な時には戻る事が出来る心理的な拠点の事です。
たとえば、公園で遊んでいる子ども。
初めて見る遊具に興味を持ち、少しずつ、近づいていく。
けれど知らない子が近づいてくると、不安になって、親の元へ戻る。
親の傍で落ち着くと、また遊び始める。
この子は、親から離れられなかったのでしょうか?
それとも、親の元へ戻れる事を知っていたから、離れていけたのでしょうか?
同じ子どもの行動でも、見方により、その意味は変わります。
「愛着」について学ぶと、子どもの行動に対する見方が、変わります。子どもがーー
☆親から、離れない時
★泣いて、抱っこを求める時
☆何度も、こちらを振り返る時
ーー親は、早く1人で出来るようになってほしいと、思うかもしれない。
けれど、その行動の背景には、不安があるのかもしれない。
安心を、確かめようとしているのかもしれない。
だからこそ、行動だけを見て、判断しない事が、大切なのかもしれない。
勿論、子どもが求める事を、親がいつも満たせるわけではありません。
ママやパパにも、事情があるーー。
★疲れている日も、ある
☆仕事で傷ついた日も、ある
★余裕がない日も、ある
ーーただ「愛着」とは、いつも完璧に応える事によって、形成されるわけではありません。
「愛着」は、子どもの気持ちに目を向け、出来る範囲で応えながら、安心出来る関係を少しつずつ築いていく事で、形成されていきます。
子どもが世界へ踏み出す時、その背中を押す事だけが、親の役割ではありません。
子どもが戻ってきた時に、もう1度、安心出来る場所である事。
私は、これこそが、最も大切な親の役割であると、思っています。
ーー人は、帰れる場所があるから、遠くへ行けるのかもしれない。
そしていつか、誰かの帰れる場所になれたら。
その人が、安心して遠くへ行けるように。
いつか、自分の足で歩けるように。
ただ、そこにいる。
離れていくことを、失うことだと思わずにーー。
ー誰にも、頼らずに生きられるようになったのか。それとも、誰にも頼れなくなっただけなのかー
では、大人はどうでしょうか?
子どもにとって、安心出来る場所は、世界へ向かう為の場所でした。
それなのに、なぜ私達大人は、安心を必要としなくなる事を、成長だと思ってしまうのだろうーー?
★頼る事より、1人で耐える事を覚えてきた
☆助けを求めるより、迷惑を掛けない事を覚えてきた
ーーその結果、1人で立てるように、なったのかもしれない。
けれど、1人で立てるようになった事と、誰かに支えられる必要がなくなった事は、同じではありません。
人は、自立する事で、誰も必要としなくなるのではない。
自立とは、誰の力も借りずに、生きる事ではありません。
自立とは、誰かに支えられながら、自分の行き先を、自分で決める事だと、私は思う。
子どもは、安心出来るママやパパを、振り返る。
そこに、いつものママやパパがいる事を、確かめる。
いつかその子も、大人になる。自分でーー
☆決めなければならない事が、増える
★責任を負わなければならない事も、増える
ーーそれでも、誰かに頼っていい。
自分だけでは、どうにもならない事が、あってもいい。
それは、成長出来ていないという事では、ありません。
自分の力で歩いていく事と、誰かの力を借りる事は、矛盾しないのだから。
成長とは、誰にも頼らなくなる事ではない。
成長とは、頼る事の出来る自分のままで、自分の足で歩いていけるようになる事。
子どもに、安心出来る場所を与えようとする大人もまた、安心を必要とする1人の人間なのだから。