違いをなくせば、管理はできる。違いを受け入れてこそ、教育になる2





 ーー失うことを、恐れる時。



 ルールは、誰かを縛るために作られるとは限らない。

 むしろ多くの場合、何かを守るために作られる。


 安全を守るため。信頼を守るため。組織を守るため。

 そして、時には未来を守るために。




 だからルールを作る人もまた、自由と安全の間で、揺れているのかもしれない。

 園が見ていたのは、目の前のクレームではなく、その向こう側だ。


 人が離れていくこと。支持が失われること。園が続かなくなること。

 経営とは、理想を語ることだけでなく、失われるかもしれない未来を背負う営みでもあるーー。






   ♦最後に残る景色



 先日、あるインターナショナル保育園の園長と、話をしました。

 私は、以前から気になっている事を、率直に伝えました。


 「この園は、違いを排除しない事に、魅力があると思っています。だからこそ、今年に入って禁止事項が増えている事が気になります。」




 すると、園長から、こんな返答がありました。

 「保護者からクレームがあるんです。子どもがリップを持ってきて、他の子に塗った事がありました。私は、それくらい良いと思うんですけどね。」



 さらに、こんな言葉も続きました。

 「子どもの幸せよりも、英才教育を求める親もいるんです。」



 その時、私は園長の苦しさが、少しわかった気がしました。







 ーーけれど、私はもう1つの「失う」が、気になった。

 人を失うことを恐れるあまり、理念を失うことはないだろうか?




 違いを、受け入れる。

 多様性を、大切にする。

 価値観の違いを、学びに変える。


 こうした言葉は、穏やかで美しく感じる。




 しかし、その言葉が本当に試されるのは、誰もが賛成している時ではない。


 その言葉が本当に試されるのは、誰かが反対した時だ。

 不満が出た時。損をするかもしれない時。



 その時、理念は初めて試されるーー。






  ー理念を守れば人が離れることもある。理念を捨てても人が離れることがある。だから問われるのは「何人残るのか」ではなく「何を残す」かであるー



 園長自身も、その変化を望んでいるわけではありませんでした。しかしーー


   ★クレームがある

   ☆トラブルがある

   ★保護者の不安がある


 ーーそして、何より園を続けていく為には、経営を考えなければなりません。



 もし、不満を持った保護者が離れていけば、園の運営そのものが難しくなります。

 理想だけでは、園が続きません。

 その現実を、園長は背負っています。





 けれど、同時に、私は別の事も考えました。

 クレームによってルールを増やしていくと、今度は逆に、この園の理念に魅力を感じていた人達が離れていくのではないだろうか?と。



 



 ーーもし、誰かが嫌がるたびに、1つずつ色を消していったら、最後に残る景色は、どんなものだろう?


 赤は派手だと言われ、青は冷たいと言われ、黄色は落ち着かないと言われる。

 そうして全てを削っていけば、争いは減るかもしれない。



 
 けれど、そこに豊かさは残るだろうか?

 違いとは、時に面倒なものだ。

 しかし同時に、世界を世界たらしめているものでもある。



 理念とは、誰もが拍手をしている時に、語る言葉ではない。
 
 理念とは、拍手がやんだ後も、なお手放さないものの名前であるーー。






  ー全ての人に好かれる場所になった時、その場所は誰かにとって特別の場所ではなくなるー



 世の中にはーー


   ★厳格な管理を求める人もいる

   ☆トラブルを避けたい人もいる

   ★公平さを重視する人もいる



 その一方ーー


   ☆違いを受け入れること

   ★価値観の違いに触れること

   ☆多少の面倒さや摩擦も学びの1つと考えること


 ーーこのような世界観に、魅力を感じる人もいます。




 これは、どちらが正しいかという話ではありません。

 寧ろ大切なのは「この園は、何を大切にする園なのか」という事なのだと、思います。





 経営とは、多くの場合、市場の声を聞く事にありますーー。


   ★顧客の要望を聞く

   ☆不満を減らす

   ★離脱を防ぐ


 ーーこれ自体は、正しいです。


 しかし、市場の声に応え続けた先に、時に市場に埋没するという逆説があります。

 何故なら、全ての人に好かれようとすると、誰からも強く支持されなくなるからーー。



   ☆違いを排除しない園

   ★価値観の違いを受け入れる園

   ☆多少の摩擦も学びとして受け入れる園



 ーーこうした理念に惹かれて、集まってきた人達がいます。




 しかし、その摩擦を1つずつ消していけば、その園は少しずつ「普通の園」になっていきますーー。


   ★クレームは減るかもしれない

   ☆安心感は増すかもしれない


 ーーけれど、その園でなければならない理由も、少しずつ失われていきます。







 ーー子どもたちが、これから生きていく未来は、同じ人ばかりの世界ではない。

 違う文化があり、違う価値観があり、違う考え方がある。



 その世界で生きていくために必要なのは、違いを消す力ではない。

 その世界で生きていくために必要なのは、違いと共に生きる力だと思う。





 組織は、生き残るために、変わり続けなければならない。

 けれど、変わり続ける中でも、変えてはいけないものがある。


 理念とは、その境界線を示すものだと思う。

 何を守るのか。何を変えるのか。

 そして、何だけは失ってはいけないのか。


 その問いに向き合い続けることこそが、理念を持つということなのかもしれないーー。