「今日が雨ならよかった。晴れの日の失恋ほど痛々しいものはないよ‥」
「‥男だって話したのか?」
「したよ。」
「女だと思ってた奴が女装君だったらフツービビっちゃうよ。‥でもよかったじゃん。最後に抱きしめて貰えて。」
「ふざけんなよ‥最悪だよ。あーサイアクだ。だって女の子には絶対あんなことしないだろ。最初ビックリしてた。次に後悔したような顔‥そしたら急に優しい表情になって、俺を抱きしめて。」
「‥うまくいかないな。お前くらい整った顔なら、男の恰好してた方がモテるだろ。今だって女子に‥」
「まあね。でも、世間が良いっていうものにならなきゃいけないなら俺は死ぬ。女の恰好することってそんなに変?可愛く美しくありたいことが、男が男を好きになることの何が普通じゃないの?俺の好きだけが、俺を守ってくれるんじゃないのかなあ‥」
『ブルーピリオド』ユカちゃんと八虎の会話です。
ユカちゃんは、女装男子です。
そんなユカちゃんの存在を、両親は認めません。
その中で唯一ユカちゃんのありのままを、受け入れてくれた存在がおばあちゃんでした。
ユカちゃんは、そんなおばあちゃんが大好きです。
「俺は、ずっと苦手だった。女装好きで、変人で、人気者。その正体は‥。あの彼には素の龍二は、受け入れられなかったようだけど、俺は、龍二を知れば知るほど、変人に思えなくなってきている。」
八虎の心の中の言葉です。
ユカちゃんは、進路を選択する時、美大の日本画を選択します。
理由は、おばあちゃんが日本画を好いていたからです。
しかし、その選択がユカちゃんを苦しめます。
日本画を描き進めるうちに、日本画を描く事がユカちゃんにとって苦痛になっていくのです。
ユカちゃんの好きは、日本画ではありませんでした。
呪いには、様々な種類の呪いがあります。
両親のようなわかりやすい呪いもあれば、おばあちゃんのような善意の呪いもあります。
『進撃の巨人』然り『呪術廻戦』然り『チェンソーマン』然り、昨今の漫画やアニメは、悪意の呪いだけではなく、善意の呪いも描いてくれます。
成功する為に故郷を飛び出す必要があるのは、善意の呪いを解き放つ為です。
『ブルーピリオド』は、複雑に絡み合う呪いを、ダークファンタジーという世界ではなく、誰もが向き合った経験のある進路選択という中で、見事に描いています。