ーー後悔は、過去に置いてくるものではない。
後悔は、未来に持っていくもの。
悔しさも、同じ。
悔しさを、忘れる必要はない。
その悔しさを忘れないからこそ、次に行けるーー。
ー負けた日の、自分を消すのではない。負けた日の、自分を連れて、次の舞台へ行けばいいー
日本代表初ゴール。
ゴール後、彼は、口元に人差し指を立てるポーズを見せた。
「黙れ。」
そう読めるパフォーマンス、だった。
「いろんなメッセージが来て、すごく悔しい思いをして過ごしてきた。そういうのをあの1点で黙らせるというわけじゃないけど、そんな感じの意味があった。」
試合後の、彼の言葉。
途中出場したウルグアイ戦、彼は、ボールを貰うと、2度無謀とも思えるドリブルをした。
周りが見えていないと、誰もが空回りしていると、感じた。
しかし、彼は突如、冷静にワンタッチで仲間へボールを落とし、もう1度ボールを貰い、ゴールを決めた。
あのブラジル戦から、まだ時間は、それ程経っていません。
あの日、世界から注目されたのは、彼の言葉だった。
この日、世界から注目されたのは、彼のゴールだった。
ーー人生には、何度も「やらなければ、良かった。」と、思える瞬間がある。
でも、そのたびに、そこで人生を、終わらせなくていい。
間違えたなら、次は、同じ間違いをしなければいい。
負けたなら、次は、負けないために必要な行動をすればいい。
そして、自分の言葉で傷ついたのなら、次は、自分の行動で、言葉を超えていけばいいーー。
ー過去の言葉を、変えることはできない。だから、未来の行動で、その言葉を超えていくー
「プレミアに行って、クーニャやガブリエルとマッチアップして活躍する。自分のゴールで倒す。」
「そして4年後のワールドカップで応援してくれる日本国民の想いを背負って勝ち上がり、ブラジルを見返さなきゃいけない。」
「このままじゃ終わらないですよ。」
「ブラジルは、昔は強かったというイメージ。」
ブラジル戦前のこの発言が1人歩きし、彼は、世界中から批判にさらされるーー。
★インスタグラムに、誹謗中傷が届き続いた
☆誹謗中傷の数は、100万を超えた
★殺害をほのめかす内容も、あった
ーー彼は、ブラジル戦に、出場出来なかった。
ブラジル戦後、ガブリエルは彼に近づき「Dont talk about Brazil.」と、声を掛けてきた。
クーニャは、彼に対して優勝回数を示す5本の指を掲げ、彼を挑発した。
彼は、たった12分間の代表出場時間で、ワールドカップ日本代表を勝ち取った。
ワールドカップ前、彼は「目標は、得点王。言うのは自由だし、頑張る理由になればいい。別にビッグマウスなんかじゃなく、目標が高いだけですから。」と答えた。
彼の高い目標は、今に始まった事ではない。
どこから始めたのではなく、そこからどこまで行こうとしたのかで、その人の物語は決まるのかもしれない。
彼の物語を「日本代表期待のストライカー」から始めてしまうと、大切なものを見落としてしまいます。
彼は、最初から、そこにいたわけではないーー。
☆横浜FCのユースへ、昇格できなかった
★高校も、4軍からのスタート
☆高校卒業後の舞台は、大学3部リーグ
ーーしかし、彼は高校卒業時「3部で無双すればいい。」という言葉を発し、得点王という結果を残した。
ここが、彼の物語の核。
「3部だった。」ではない。
「3部だったら、そこから始めればいい。」である。
彼は、環境を言い訳にしなかった。
寧ろ、その環境を、自分を証明する場所にした。
2024年。
彼の元に、オランダ1部NECナインヘンから、オファーが届く。
19歳。大学生2年生。まだ、日本のプロ選手でもない。
それなのに、大学を中退して、いきなりヨーロッパに飛んだ。
横浜Fマリノスからは、2027年加入の内定も、受けていた。
普通に考えれば、その道を進むーー。
☆大学で、プロで通用する身体を作る
★Jリーグで、経験を積む
ーーそこから、ヨーロッパへ。三苫を始めとした、日本の若手でよくあるルート。
ところが、彼は、人と違う道を選ぶ。
「今、行く。」を、選んだ。
ーー物語は、終わらない。
むしろ、悔しいと思ったところから、次の物語が始まる。
「あの時、これをやらなければ良かった。」
そう思える過去がある人ほど、その先に、まだ行ける場所がある。
過去を、消すことはできない。
でも、過去を持ったまま、未来へ進むことはできる。
だから、後悔したままで、いい。
悔しいままで、いい。
ただ、そこで立ち止まらなければいいーー。
ー「やらなければ、良かった。」と思える過去があるなら「まだ、ここから。」と言える未来も残っているー
彼が、プレミアに行く日は、まだ先の物語。
彼は、今、ドイツ2部のチームに、所属している。
彼の物語を見ていると、今、ドイツ2部にいる事は、大きな問題ではないように思える。
大切なのは、プレミアにまで行かないと、あの日の借りは返せないという感覚。
これは、サッカーの物語であると同時に、人間の物語でもある。
人は、自分より上の世界を見た瞬間に、2つの選択を迫られますーー。
★「自分には、無理だ。」と、諦めるか
☆「あそこまで、行く。」と、挑戦するか
ーー彼は、挑戦を選び続けてきた。
人生には「あの時、これをやらなければ良かった。」と、思う瞬間がありますーー。
★言わなければ良かった、言葉
☆選ばなけれなば良かった、道
★信じなければ良かった、人
ーーただ、それらを消す事は、出来ません。
否、消す必要は、ありません。
悔しさや怒りは、過去に置いておいては、勿体ない。
悔しさや怒りは、未来に持っていくもの。
彼は、まだ物語の途中にいる。
ブラジルに負けたあの日は、彼の物語の序章に過ぎない。
昨日、その物語に、日本代表初ゴールという、言葉が紡がれた。
けれど、それすら彼にとっては、物語の次の1ページを開く為の、一行に過ぎないのかもしれない。
私達はその物語の名前を知っているー塩貝健人、と。